それを黙って見てる…いや見てるかもわからずにわたしの蚊帳の外に付き合ってくれている。いやいやもっとガードしないと、あんな可愛い子、中学の頃に彼氏がいなかったことが奇跡みたいなのに。
「あのさ、槙野。もう抜けない?」
「へ?」
「一緒に行きたいところがあるんだけど」
「あ、それなら…わたしが力になれることなら」
その返事になぜか彼はとても笑っていた。
「うん、槙野にしか頼めない」
それならいいか。舞菜と結香子に声をかけて、ふたりでカフェを出た。
もう少し結香子と話したかったけど、機会はまた作ればいいよね。それより異性な高薮くんと会う機会の方が少なくなりそうだもん。
わたしにしか頼めないことってなんだろう。
そう思いながらお互いの高校生活について話していると彼はやっと立ち止まった。
駅前のクレープ屋さん。
「あ……!」
思い出した。そういえば、約束していたのにずっと行けていなかった。
「もうあの券使えないね…。ごめん」
察したわたしに首を横に振ってくれる。
「ううん。本当にごめんね。あの頃、わたし、たぶんそれどころじゃなかったよね」
恥ずかしい。だけど本当にそうで、3年生が卒業して、晴臣先輩がいない校舎に行くだけで…バイクの音が通るだけで、わたしは人目も構わず泣いてしまう時期があった。