晴臣先輩。


何度も悲しいと思った。正直に言うとつらかった。届かないことに憂鬱になり、彼が独りで闇の中に飛び込んでいくことがもどかしかった。

今もまた、甘くて苦い思い出を彼はわたしに残していく。


ずるいよ。これじゃ、本当に絶対にわすれられない。



「このままでいいの!? 陽花里!」


結香子の声にはっとして、このままじゃ嫌だとやっと足を動かすことができた。


体育館の外に消えてった晴臣先輩を追いかける。



外に出ると彼はあの空色のスニーカーで雪を踏んで真っ直ぐ進んでいた。


引き留めたい。わたしだって抱きしめたい。もっとキスしたい。だけど呼んでもきっともう振り向いてくれない。言いたい。



「晴臣先輩!」


予想通り振り向いてはくれない。それでもいいよ。


「わたしこそ…庇ってくれて……っ、恋を、教えてくれて…出会ってくれて、ありがとうございました…!」


引っ張り出すとか、突然思い出すとか、そんなものじゃなくなってしまう。

いつでも考えちゃう。

見えなくなる、中学の制服姿の彼。雪を象る残像のような足跡。


ずっとこころの真ん中にあなたがいた。


「晴臣先輩…大好きです」


さよなら。

いつも言ってくれた「知ってる」って言葉は、もう返ってこなかった。