昨年は桜が咲いていたらしい。

だけど今年は雪が降り積もる中で卒業式はおこなわれた。


卒業生を送る有志の合奏でわたしはピアノを弾くことが決まっている。

舞台袖で緊張するわたしを、歌で参加する結香子が笑わせてくれた。


「結香子、クラスが替わっても仲良くしてくれる?」

「当たり前だよ!同じクラスになりたいねえ。まあ部活も同じのに入ったし友情の心配はなーんもしてないけどね」


そう。結香子が入っていた吹奏楽部に入れてもらったんだ。途中入部だったから不安もあったけどすっかり打ち解けて楽しく活動させてもらってる。友達もできた。

やっぱりコラム部と迷ったけど、晴臣先輩を追いかけるばかりじゃいけないって意地を張るみたいにやめてしまった。


それでも意識してしまうのか文系の教科の勉強は特に集中してやっている。



「出番だよ、陽花里」


背中を押されて舞台に出る。遠くで高薮くんが微笑んでいるのが見えてなぜかほっとした。


ため息をつくように呼吸を整える。

人前で演奏するって気持ちいいけど本当に緊張する。

しかもこんなお祝いの場。

逃げ出したいけど立候補した責任がある。やり遂げなきゃ。


ひと目会いたかったけど、今日という晴れの日にもとうとう学校には来なかった。

──── 「…子守唄かと思った」

つぶやくようにそう言ってくれたこと。涙を見せたこと。そんな晴臣先輩を思い出しながら、最初の音を鳴らした。