佐伯さんが突っかかってくることもなくなった。
後から聞いた話、高薮くんがあの公園まで探してくれたのは「やりすぎだ」と判断した佐伯さんの取り巻きが結香子へ連絡をしてくれたからみたい。おかげでわたしは足の捻挫だけで無傷だった。
何もない。晴臣先輩だけが、罰を受けたことが悲しい。
だけど謹慎処分は自宅にいなければいけないわけじゃなくて、補修や掃除を主にして一週間で復帰できるように理事長…晴臣先輩のお父さんはしたらしい。
それでも彼はいつまでも学校へ来ないまま。
コンビニに行った。あの公園にも行った。彼のお母さんの個展は終わってしまっていた。
連絡先も知らない。家も知らない。もう、会うすべがない。
「陽花里聞いてる?おみ、あいつ連絡先変えやがって家にも帰ってないみたいだし、だーれも行方わかんねーの。どうしよ?オレ早くやり返したいのに」
「ヤマ先輩ってもしかしてツンデレさん?」
「は?なんで」
いや…どう考えてもそうでしょ。晴臣先輩のこと心配してるのが手に取るようにわかるもの。
そしてわたしのことも。
あの件以来、佐伯さんがまたわたしに何かしてこないように見張るみたいに頻繁にこの教室にやってくるヤマ先輩。あの夜この人はあの公園にはいなかった。
昨日も一昨日も先週も同じような内容をひたすら言っていた。晴臣先輩に会いたいんだろう。