「おみ!何してんの!?こんなやつあんたなら一発でしょ!うちまだ気済んでないんだけど!」


あなたのためにあの人がいるんじゃない。

晴臣先輩は高藪くんの叱責を受け入れた。

周りの男たちが高藪くんに襲いかかる。

わたしの所為で巻き込んだ。


「高藪くん…!」


男と彼の間に入り、降りかかる拳に目を閉じる。

だけど一向に痛みがこない。

目を開けると晴臣先輩が代わりに暴力を受け入れていた。


庇ってくれたらしい。
ねえ、それは今更だよ。



「晴臣先輩…なんで…」

「うるせえよ。早く行けよ。いい加減おれに関わんな」


温度を感じられない瞳。

たぶん全てに腹を立てている。


関わんなって何回も言われた。巻き込まれても知らねえからなって線を何重にも引かれ続けていたのに無視をして、飛びこえようとして、できなくて、悔しくてやっぱり諦められなくて、また近づいた。

その結果がこれだ。

彼は本当に助けてはくれなかったし、わたし自身じゃない人を巻き込んだ。


彼は今傷ついている。

自分の所為だと思っている。

だから一人で、いつも一緒にいた人たちを殴って、血を浴びて、血を流して、流せない涙を流している。


幼い制服姿のまま血色に染まる拳。彼の足元に転がる玩具みたいな個体。吸っていた煙草をそこに落として火傷をつける。酷い光景だった。


「槙野、行こう。此処にいちゃいけない」


高藪くんが肩を抱いてくれた。震えていたことに気づく。