舌を噛む?彼らを怒らせて殺されてみる?逃げてあの人のポケットから刃物を盗んで自分を切る?

それとももうどうでもいいかな。

どうせ恋も叶わない。
彼はわたしを見てくれない。

こんなことになってるのに。


くちびるを奪われそうになり顔を背ける。容赦なく顔を掴まれ、けっきょく噛み付いてきそうな気配にぎゅっと目をつぶった。


嫌だ。

晴臣先輩しか、嫌。絶対嫌だ。

助けて。助けてほしい。



「──── 槙野……」



微かに、わたしを呼ぶ声が夜空に響いた。

期待してないと強がりながらも求めていた声じゃなかったけど、涙が出そうなほどうれしくて、安心する声だった。


「槙野!」


勇気を振り絞って男の体を振り払い上半身を起こすと、息を切らした高藪くんの姿があった。


「なんで……」


来ちゃだめだ。男の高藪くんはきっと殴られる。

駆け寄ってくる彼に向かって首を振る。


だけど応えてくれないまま、彼は男たちを避けてわたしの身体に自分のジャケットをかけた。



「ごめん、遅くなって…。もう大丈夫だから」


乱されたYシャツのボタンを閉じていくその手は震えていた。

普段締めてない第一ボタンまで留められたあと、高藪くんは立ち上がって晴臣先輩の方に無言で歩いてく。


「だめ…っ」


手を伸ばしたけど届かない。

誰を庇いたかったかも解らない。


「何してんだよ!!」


いつもクールな高藪くんが怒り任せの声を出して晴臣先輩の胸ぐらを掴み、握ったこぶしを打ち込んだ。