震える手で頼りないこぶしを身体の横に作る。

この人が文句を言いに此処に来たのなら、わたしはたぶん間違った。だからすぐにあやまろうと彼を見上げたのとほぼ同時に渇いた笑い声がした。



「あー……ごめん。怒ってないよ」


静かにくしゃりと歪む表情。目元にしわが寄る。そんなふうに、おとなっぽく笑うんだ。


「人見知りだからかな。初めて話す人のこと威嚇しちゃうみたいで」

「人見知り…」


というわけでもなく潜在的なものだと思う…。


「怒ってると思われててそれでも言い返されたのはじめて。槙野、やっぱりおもしろい」


指が頬に触れた。唐突だったし、ひんやり冷たい。

はじめて、とどこか嬉しそうに言う。わたしだって、あなたのような人ははじめて。親以外が顔を触ってきたのもはじめて。


やっぱりって、何?



「体育祭で久しぶりに楽しい時間を過ごしてちょっと夢中になっちゃったんだよね。でも途中で何も着てないこと思い出したよ」

「じゃあなんで…」

「おれも待ってた。預けた子がなんとなくおもしろい子な気がしてたから」


意味わからない。ぜったいに嘘。調子が良いこの言い訳は鵜呑みにしちゃいけない気がする。


「でも返しに来てくれなかったから出向いてあげた」


上から目線。望んでない、と言いたいのに言えないのはどうして。