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「まさか人間は仮死状態とはね」
「便宜上そう言っているだけだ。コールドスリープ、なんて新大陸の人間が好みそうなとんでも設定すぎるだろう。だからご都合主義とか言われるんだ」
仮説はそんなに間違っていないようで、やはり雪に埋もれていた彼らは一種の冬眠状態。出来事や結界の作用で倒れてからの記憶がややあいまいなようだが、当時行方不明になった面々と情報がぴったり一致した。生き残った三人はもうすっかり老人だが、全員で喜びの祝杯をあげるのだそうだ。故に今日は街中どこも祭りのような騒ぎだった。
カーミラとリッツも似たようなもので、洞窟で野営をし始めた一日目のことは覚えていたが、二日目と三日目の記憶がなかった。あれから二ヶ月以上たっている話をすると飛び上がって驚いていた。カーミラはアムとイーズが気に入ったらしく、加えてカーミラは自虐はひどいが加害性がないからと二人もまあまあ仲良くやっている。今日はカーミラが祭りを案内するのだとか。
ちなみにアムに「鈍感すぎるのも考えもんだべ。カーミラ可哀想」と言われたが「だからほかの男と」と言いかけたリッツがなにやらぼこぼこにされていたので真意はいまいちわかっていない。
「アールだけ、だね。一緒に外にこれなかったの」
「……」
ここはジオルグの家。その壁にかけられたいささか不似合いな少年服は、泥遊びでもしたかのようなかさついた汚れが残っている。
「俺はまた冒険者稼業に戻る。そのために北の調査に行くつもりだ。邸に残っているものも多いしな。万が一、シイとサイカとアマルティアの痕跡が目についたら大変だ」
「それはまあ、そうさな」
シンが「語り部」だという話をしたら住人たちはどうしていいかわからないようだったが、シンが一言「しばらく北には近づかないで」といえば頷いていた。まあ交渉というより脅しに近いものがあった気がしないでもないのだが。
東西の立ち入りに関しては第九の影響による問題で災害が起きていたことが判明した。つきとめたのはイーズだ。なんでも拒否反応を示す境目の痕跡が残っているとかで。「咳と同じなの」ということでその拒否反応を示す箇所に触れると魔法により跳ね返りが起きて、力が強すぎて連鎖的な事故や疫病として人類種にぶつかってしまう。そんな馬鹿なと思ったが第九のが規格外だったのだと黙っておくことにした。
先遣隊を派遣して竜族と魔法族探しをするにあたり、西にアム、東にイーズを同伴させていたのだが魔法族は墓石がみつかるばかりでもう種族としての確認が取れなかったそうだ。禁号魔法の発動に巻き込まれたのかも、というおぼろげなシンの記憶は案外間違っていないのだろう。文明六種族のうちの一つ、類まれなる知識を有する種族の消滅が記録された。
竜族は生息が確認された。元々ガレリアで生息していた種族なので、その後の生活も特に変化はなかったそうだ。
シンの血縁、氷竜の生存も確認された。祖父であるカラミタは他界してしまったそうだが、話に出てきたサイカの兄弟はまだ存命らしい。数日後に顔合わせの予定だ。
「俺も行くよ、後片付け」
「そうだな」
まだどこかで、すこしだけ、何かを期待している。