ガシュッ、と鈍い音がしてなんの穢れもない白い世界に深い赤が差す。

 どうしてか、攻撃をしたはずのシイが呆然と信じられないものを見たような顔をして、よろけるように後ずさった。

「ジオルグ! しっかりしろ。聞こえるか!? アム、イーズ! 早く!」

「ぅ……ぬか、った、……な」

「喋ってんじゃねえよ! なんで、なんで庇ったんだよこの馬鹿!」

 アールのときとは違うらしい、シンの魔法でも傷口がふさがっていくのがわかる。痛みがすんなり消えていく感覚に、なつかしささえ覚える。まだアールがいて、四人で稽古をしながら、ただの擦り傷にさえ三人が大げさに騒ぐものだからそれがまた新鮮で、おかしくて、同じくらい愛おしい。

「だめ、だめだよ、ジオルグ。ジオルグまでいなくなったら」

「しんぱい、ない」

「俺のことなんか、庇わなくてよかったのに」

 一昨日イーズが治癒魔法をかけてくれた時と同じ感覚を味わう。もっともさらに広範囲で重傷で、ちょっと笑えない量の出血をしたので傷がふさがってもすぐには立ち上がれそうもないのだが。

「ジオルグ、ジオルグ……っ、死んだら、許さないからねええ」

「だべだべ! ぜったい、ぜったい、許さな……」

「平気だと、いっただろう。外に出たら……一緒に、旅をしよう、と」

「なんで、飛び出してきたの。らしくない」

 答えなどわかりきっているその質問が、なんとなく好きだと思った。

「友達や仲間をかばうのに、理由なんかないだろ」

「……そう、かもね」

 泣きながら笑うシン。それを遠くから見つめて、あからさまに戦意を喪失させているシイ。なにを思っているのかは生憎わからないがもう戦う気力もなさそうに見えた。まるで、そう、怒っていた、泣いていた、その理由を忘れてしまったみたいな。