「三人置いてったら数日は生きてるだろうしきみだけ生き残っちゃいそうだね、けど君らは二人になったら明日まで生きてないかもしれないね」
「二人を助けてもらうというわけにはいかないのか」
「それは君が独りぼっちになるってこと?」
「やむを得ない。幸い俺は二人よりまだ冷静だ、と思う」
ふうん、と青年が考え込むような仕草をする。極限状態、こんな真っ白と真っ青だけの世界で一人になったらそのあとも冷静でいられる保証はないが、二人を助けてもらったと最後にいい人だったふりをするだけでまともな気持ちで死ねそうな気がする。
べつにみすみす死ぬつもりはないが、後々になって自分が元の生活に戻った時にカーミラとリッツのことで絶対に後悔する自信がある、とジオルグは思った。だったら独善的な感情を優先したかった。
「たとえばね、君らを助けてあげてこっちが得られるメリットってなに?」
「あいにく俺は力仕事くらいしか役に立てないな。カーミラは料理や掃除が一通りできるし、リッツは頭がいいからここから出る方法を考えられるかもしれない」
「ふーんん……」
まだ足りないのか、もう一度九十度に首をかしげる。そういえばまだ名前も聞いていないなと青年の顔を見つめた。
ロンディウムの人間の顔つきではない。かといって大陸によく見る顔でもない。肌は周囲の雪に溶け込めそうなほど白いが黒い髪と黒いワンピースはその白の中にひどく浮いているし、目は真夏の太陽のような赤と金を混ぜたような色をしている。瞳孔が縦に長いのは竜の血だろうか。爬虫類的な印象を受けた。
「ん! わかった、こうしよう! これ、俺のうろこなんだけど、これ持ってるとどこにいるかわかるんだ。三日後までに生きてた人だけ助けてあげるよ」
ワンピースの袖をまくると肘より上はうろこでおおわれているらしくあらたかな光源もないのにきらきらと光っていた。緑、赤、紫、金、青、緑、青、赤と色を変えるうろこは宝石のようで、ロンディウムの先祖返りたちのものとは明らかに違うとわかる。昔は、その血が濃く流れていた者たちのうろこはみんなこんなに美しい色をしていたのかもしれない。