「殺してやるってわりには、情けをかけただろウ? そんなんじゃ、本当に大切なものは守れないヨ!」
「きゃあっ」
「うわあぁっ」
翼を羽ばたかせて風を起こすと着地で雪に足をとられた二人はそのまま後方へ飛ばされる。まだ目視できるがすこし距離が遠すぎる。シンはどこだ、自分はあとにしてもシンにアムとイーズを確保してもらえれば
「シイ」
ひどく落ち着きはらった声がして上空に目をやれば、いつもよりも大きく羽を広げたシンがいる。巻き起こる吹雪で表情は見えないがうつむいているようだった。
「シイはよく俺に母さんの話をしてくれてたね。その中に、俺がどうだったかっていう話は一つもなかった。知ってたのに黙ってたのは、何か意味があったの?」
「……それを聞いてどうするノ? どうせこれからもシンはずっとここにいるのにサ。一人で、ネ」
「わからない。過去は変わらない。それでもシイを信じたいと思ってる。きっとなにか意味があったんだって、それは俺のためのなにかなんだろうとも。……言えないなら、吐かせるまでだ。それに俺は、もうここに用はない」
シンがこちらを見て、笑ったような気がした。
「俺たちはここを出ていくんだよッ!」
「シン!」
言い切ると同時にシンの姿が変わる、半獣半人であるシンには、あれが本来の姿なのだろうか。身の丈の何十倍もある氷の羽と、魔力をたたえる大きな角とそれらに見劣りしないほどの爬虫類の尾。
サイカは歴とした竜族だからああいう竜の姿なのだろうが、そうではないシンはあれがデフォルトなのだろう。竜族と魔法族のダブル。そこに渦巻く強大な力。バチバチと雷のような音を立ててシンはそれをまとっていた。