「シイはあの日、確かに俺の前で死んだはずだ! 体も、魂も、消えて出来事になったはずだ! お前は、お前は誰だっ」

「ボクはシイだヨ。ずっとずうっと、シンと一緒にいたじゃなイ。忘れちゃっタ?」

 さんざ話だけで聞いていた特別な精霊。その姿までは見えなくとも、その特徴的な喋り方だけは違えようはずもない。

 こともなげに言ってのける自称・シイの口調はおだやかで取り乱しているシンとアムのほうを落ち着けとなだめたくなるような不思議な光景だった。

 何が起きているんだと口を開いては閉じ、開いては閉じ、此方を見下ろす竜に目線を定めている。

「これでも結構苦労したんだヨ? 魂割転用は本来、魂を半分にするものだからネ、三分割させるのはなかなか大変デ。どうだった、名演技だったでショ?」

「演技……まさか、やっぱり、やっぱりシイが! 父さんの体を使ってたんだな!? そうだろう!?」

「!? どういうことだ、シン」

「おかしいと思ったんだ、水晶が濁っても目の色が変わるなんて聞いたことないからね」

 先の戦闘中に「もしかして」と呟いていたが、シンはあの時すでに気づいていたのだろう。千年ぶりで、そもそも交流が少なかったとはいえ、文字通り腐っても父親には違いない。少し見慣れた姿よりも歪んでいたのであれば違和感なんていくらでもあったはずだ。

 サイカ、の体を借りたシイはその目をまるで三日月のように細めて喉を鳴らした。

「残念だなア、本当に、本当に残念だヨ。シンはずっとずううっとここに居てくれればいいのニ外に出たがってるなんテ。ところで君らハ?」

「ジオルグ。ジオルグ・バークレイだ。この子は精霊のイーズ」

「ジオルグとイーズだネ。……で、君はシンに何を言ったのかナ」

 気温が下がったかのような、というのは比喩だがすでに氷点下のここでもう気温はさがりようがない。ただ少しにらまれたのに筋肉が萎縮してその場から動くことさえ躊躇われた。

 頭を振る。立ち止まるな、うろたえるな。自分にはまだできることがあるはずだ。