「た、たすかったべ」

「すまん、シン」

「いい、んだけ、ど……三人は、さすがに、きづいいいぃ」

「「「ぎゃあああああ!?」」」

 ぼすんっ! と雪の上に四人で墜落する。幸い、雪崩てきたばかりの雪は柔らかく無傷で済んだがシンはバツの悪そうな顔をしていた。

「ご、ごめんって、落とすつもりは」

「ね、ねえ、待って」

 顔をあげて当りを見まわし、さっきまでとはまた別の涙声でイーズが口を開いた。

「あの、あのさああ、シン様の父親をどうにかしたらって話でええ、さっきジオルグが、倒したんだよねええ?」

「あ、ああ。それがどうした」

「なら……どうして、第九は解けてないままなのおお……?」

「え?」

 麓に、遠目に見える強大な壁は、なんの変化もないままで雪が解けるでも天気が急に荒れるでもなく、いつもとなんら変わらないまま。

 魔法が解けたとしても基本は目に見えないから感知するしかないそうだが、こういう物理的な効果があるものは溶けるなり消えるなり弾け飛ぶなり、なにかしらの変化が起きるはずだという。

「そ、それに、それにねええ、さっきから……アールの気配がしないのおお……出来事にはなれなかったとしても死んですぐ気配が消えたりはしないはずなのにいい……どこいっちゃったんだろううう」

 抱えていたアールの服に目を落とすアムとイーズ。

 乾いた黒が濃い目のグレーの泥になって服にこびりついている。綺麗にしてやりたいが、あのグレーはあれがアールであった証でもある。落とすのも躊躇われるような気がした。

「シン、おかしいと思わないか?」

「うん、なんか……変な感じがする、なんだろ」

「音がしないんだ」

「…………耳鳴りも、しないね」

 もともと大量の雪のせいで音が遠い場所ではあるがこれは明らかに異常だった。吹雪ほどではなくても風はある。なのに耳を澄ましてみても風の音が全くしない。
 雪を強めに踏みつけると、キュウと頼りない音がしてくっきりとスタンプが残るから耳がおかしくなっているというわけでもなさそうだ。現に会話は成立している。