「あ、あ、ああああ、ああぁぁん! うええええぇぇ、ああぁぁぁ!」

「うわああああぁぁん! アール、アール、ああぁぁぁ」


 ―死んだらどこへ行くんだ?
 ―出来事に同化して、出来事になるんだよ。


 本当に? それは寿命の話だったはずだ。アールはどこへいったのだろう。その亡骸すら残してもくれないなんて精霊の最期はあまりに薄情すぎやしないか。

 シャツの袖口を手にとると地面についていたせいかそこも黒く湿っていて、それは徐々に輝きを失い、星空から泥のような色へと変わる。

「どうして、アールなんだ、どうして、どうしてっ」

「……なんだこの揺れは!?」

 感傷に浸る時間も与えてくれないのかと舌打ちをする。地鳴りのような大きな音がしてがらがらと奥の広間のなけなしの天井が落ちているのが見えた。

「ここも危ない、外に出よう。アム、道はわかるのか」

「ぐすっ、大丈夫だべ、こっちだべ!」

「……」

「シン!」

「……さよなら、父さん、母さん」

 アムが先頭を、アールの服を抱えたイーズがその後ろを、ジオルグ、シンと続いて洞窟を右へ左へ駆け抜ける。肌を割くような冷気を感じながらもアムに続いて飛び出せば、吹雪ではないにせよいつも通り大ぶりなぼた雪が舞うグラシエルの光景だった。

「外に出たのか!?」

「で、たけど、雪崩があああああああっ!?」

「わーっ!?」

 シンが三人を抱え上げて高く飛び上がると眼下を大量の雪がふもとに向かって滑り落ちていく。雪煙を上げて、それが収まるころには足場の位置が少しだけ高くなっていた。