「あ、ア……サイカ、サイカ……ころ、す……おまえら、あ、アア……みんなみんナ、こ、ろして……」

「もうそんな大した魔法は打てないはずだ、体内魔素残量が五パーセントもない」

「見えるのか」

「目はいいんだ、半分は、魔法族だからね」

 無理やり笑おうとするその悪癖はなんとかならないものだろうかと唇をかむ。そうしたほうがいいのだと、きっと十八年のどこかで身に着けた技なのだろう。そしてそれはきっと目の前の、この哀れな魔法使いによってもたらされた一つの悪意の産物だ。

 それでも、シンなりにその歪んだ記憶の中のかすかな光を愛そうとしていた。

 捻じ曲げられた痛々しい過去が本当はどれだけ満ち足りていたものか、奪われてもなお。

 その元凶が、目の前にいるこの男だというのに。

「シン、そこで見ているといい」

「一人じゃ危ないよ」

「人間というのがどうやって戦うのか見るいい機会だ。お前の相棒が、凄腕の剣士だと教えてやろう」

 うごうごと痙攣する肉塊に、もう人の面影は見当たらない。腐って溶け落ちていく体を引きずりながらそこかしこに甘い腐臭を充満させるそれは、かつて本当にあの美しい青年の親だったのだろうか。

 傷一つない、大きな氷像の竜。空っぽの竜。あれだけ大きいと人間のいるこの時代では生きていくのも大変そうだ。だったら、あの竜も一緒に葬送してやりたいものだが。

 かちん。

 愛刀を鞘に仕舞い、低めに構える。心を静めろ。あれはもう、友人の父親ではない。

 その姿を借りた、愛(かな)しい化け物だ。