「まるでゾンビだな、新大陸でそういう話が流行っている」

「……さっきイーズが生命反応がないって言ってたよね?」

「ああ、そうだな」

「まさか……シ……」

 シンが何か言いかけたところで咆哮と共にアマルティアは四方八方めちゃくちゃに魔法を打ち出す。それがどういう魔法なのかもわからない以上、触らないほうが賢明だとできる限り逃げることに徹する。焦点が合っていないし、ぎりぎり視力の残りが機能しているかどうかの視界なのだろう。目ではなくおそらく音でこちらを探している。

「シン、しsssしいいいいいんんん、ぁぁぁぁ……おま、エガ……お前が、さい、さ、さいさいさいサイカを」

「育児放棄野郎に言われたくねーんだ、よっ! っらあぁ!」

 散弾銃のように連続で魔法を当て続けるもダメージになった感じがしない。あまりの手ごたえのなさに、戦闘用マネキンを叩いている感覚になる。

 対生き物であれば基本的にはなにかしらリアクションがあるものだ。逃げたり、向かってきたり、叫んだり、そういう何かが。

 目の前の、アマルティアはなにもしない。動いているし、よけてはいるのだろう。こちらに攻撃もしてきているのに、なぜか生き物だと思えなかった。

「もとより、正気ではないのかもしれないな」

「こんなとこに千年もいたらね」

「はは、千年住んでるやつが言うか。笑わせる」

「俺は孤独だと思う暇なんかなかったからね」

 にやりと余裕そうに笑うシンだがその顔には脂汗が浮かんでいる。あれだけ連続で魔法を繰り出していたらきっと色々消耗しているだろう。まだ避けて、捌いていただけの自分は体力も有り余っている。