「生まれてこなければよかった。生まれてきた瞬間死ねばよかった。そしたらきっともう子供を産もうだなんて思わなかったはずだ。そしたら二人は幸せに生きていけたはずだ、この雪が、グラシエルを覆いつくすこともなかったはずだ」

「シン、シン、シン、やめろ、やめろやめろちがうちがうちがう……! 違うんだ!」

 緩やかにではあるがその目に色が戻ってくる。「目の色は両親から遺伝する」とシンは言っていた。沼地のような泥色が溶けて、その下には鮮やかな太陽のような色が見える。

 見開いた目からはとめどなく大粒の涙が溢れだしでアマルティアの顔を濡らしている。あ、とかう、とか言葉にもならないあえかな音がこぼれては涙とともに地面に落ちていく。

「さっさと、俺のことなんて殺せばよかったんだ。どうしてそうしなかった、そこまでして繕うものなんかなかったはずだ。どうして、どうして最初に終わらせておかなかったんだ」

「ぃ……ぁ…」

「そしたら俺は……俺の罪は、生まれてこなかったことか生まれてきたことだけで済んだんだ! 真第五魔法・磔処檻!」

 天井付近から人の身の丈ほどもありそうな黒い針が無数に出現し、その行き先をアマルティアのほうへ定める。後ずさるアマルティアに合わせて針も標準の向きを変え続け後を追う。

 撃ち落とそうとでもいうのか、無数の発光球を放出するアマルティア。だがうまく当たらないのか、すり抜けるのか轟音と共に天井を砕き、穴を空け、崩れた岩が落ちてくる。

「ただ普通に、愛したかったんだ。愛されたかった。二人も殺させること、無かったじゃないか」

「シン……」

「はあああああぁぁぁぁっ!」

 空気を割きながら嵐のように針がアマルティアをめがけて突き刺さっていく。あの高さから、あの量では、それこそアールの結界のようなものがなければ弾くことも防ぐこともできないだろう。

 岩を砕く音を響かせながらおびただしい数の針が地面に突き刺さっていく。

「父さん……っ」

 呟くようなその声に、悲痛な色を帯びながら