岩壁に背中からぶつかる、直前で柔らかいものに弾かれる。ふと入ってきた横穴のほうを見るとこそこそと隠れているもののイーズの角が見えた。
「貴殿の妻は、千年前に死んでいる」
「し、ししししし!? 死んで!? お、おおお恐ろしいことをぉぉ言うな、きみはあああぁ……! 死んでなんかいないさ、こ、こうして、眠っているだけだ、竜の姿は、人のかたちより体力を消耗するからね……」
「なぜここに固執する、なぜこだわっている、なぜ俺たちを排除しようとする。わかっているはずだ、もう手元に戻ってこないものを、自分がしたことの罪の重さを!」
「黙れええエエェッ! なにがわかる! お前におおまおまお前になにがわかるんだ!」
攻撃が変わる。さっきよりも細かい無数の粒が自分の周囲を取り巻いている。まるでそれは銀河のようで、不意を突かれた瞬間にこちらに向かって超速で向かってきたが到達する前に吸い込まれたかのように消えてしまう。
「な、なにが……? な、なぜ、なぜ魔法が吸収されて……」
ぶわり、足元が青く光る。先刻のアールが結界魔法を行使した時と同じ青い放射状の波が足元に漂っている。
「し、し、施天魔法? せ、精霊なのか、せ、精霊が、精霊がどうして!」
「今のは、然用魔法の一つなんだけどイグニスが吸収してくれたみたいだよ」
「無事だったか」
「俺よりジオルグでしょ」
ばさりばさりと空を切って隣に降り立つシンの目はいつにもまして鋭い。縦長の瞳孔が限界までキリキリと細くなり、その標準はずっとアマルティアのほうを向いている。
「父さん」
大きいわけではないその声が、洞窟に響く。
平静で冷淡な音の中に、どこか未練のようなものをにじませながら。
「俺はたしかに母さんを殺したよ」
「ち、ちが、ちがう……シン、違うんだ……」
「俺に魔力供給をして、母さんが弱っていくところを見てた。自分が原因だって気づかないで俺はのうのうと生きてきた」
「そ、そう、そうだ、ssっそうだそうだs、そうだ、おまえが、おまえがいたからサイカは」
「俺は望まれなかった」
はた、とアマルティアの動きが止まる。
澱んで濁ったその目が揺れる。まだ遠い。色のないそれは、だけどたしかにシンを見つめていた。