「妄執に囚われた魔法使いか、冒険譚の一つにはちょうどいい」
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして奪われなきゃいけないんだ殺してやる殺してやる殺してやるっ……この世界に……彼女以外のものなんて何一つ要らないイイイィィッ!」
その細い体からは想像もできない悲鳴じみた咆哮が響く。バチンっ、という音が鳴ると同時に矢のようなエネルギーがこちらに向かって放出される。
「ある程度のレベルであれば剣戟で魔法を相殺できる」……イーズの言葉を思い出し、上段に構えていた剣を横向きに薙ぎ払うと、矢は雪玉のように白くはじけ飛んだ。
飛び道具対策は嫌というほどしてきている、これなら懐に入ってもある程度捌けるはずだ。
「なぜ! なぜだ! どうやってここまで来た! なんなんだお前ら! 殺してやる、殺してやる殺してやるっ!」
「ハ! 哀れなものだ、お前の妻はすぐそこで寝ているその竜だろう! その目の前で客の話も聞かないなんて、恥ずかしくないのか!」
「軽々しく彼女を語るなアアアァァァ! どうせお前も僕から彼女を奪うんだろう! 許さない、許されていいはずがない!」
金切声と共にまた矢が放出される。さっきよりも数が多い。一つ一つ弾きながら後方に目をやるとシンが高く飛び上がった。
「シン!」
「っ、らああぁぁぁぁぁアアアッ!」
人の頭くらいの大きさの火球が降り注ぐようにアマルティアをめがけて落ちていく。もうもうと土煙が上がりぱらぱらと砂利が降ってきた。
仕留めた、とは思わないが当りは良かったはずだ。再度剣を構える。