「行くしか、ないんだよな」
「そうだな」
「三人とも、ここに居て。最初から五人だと思われたくない。俺たちが合図するか、よっぽどまずそうだと思うまでは出てこないでね」
「き、気を付けてねええ、ふたりとも……」
一歩踏み出す。今までとは比べ物にならない悪寒が背中を走る。どこだ、どこに居る。
「ああ、サイカ以外の誰かを見るのは、実に千年ぶりだよ」
「っ」
「こんにちは、といっても、ここに空なんかないんだけどね」
若い男がそこに居た。特徴らしいものはない、どこにでもいそうな青年。凡庸で、警戒できない、その容姿に攻撃性なんてものは潜んでいない。ああ、なるほど、サイカが惚れた理由もわかるというものだ。悪意も、下心もない、その姿の奥にある狂気に気が付かなければきっとそれは、この上ない幸福を約束されていただろう。
「お前の父親は、ずいぶん歪んでいるな」
「ちゃんと見たことなかったけど、そうみたい」
アマルティアの目線はこちらを見ているのにその目はなにも見ていない。空洞の瞳孔はあたりの水晶と同じで、どろっとして、濁り切っている。
シンを見ても無反応だが、かくいうシンも大した感慨はなさそうだった。もうないのだろう、きっと。彼の中に、子供がいた幸せな日々というものが。