すこし急な坂になるが特に変わりはないし、危なっかしい生き物がいない分ダンジョンやフィールドよりもはるかに楽に進んでいける。体力も問題ないし消耗もない。最北の最難関に居る割に心持はむしろ穏やかだった。雑談をする程度には余裕がある。
少しずつ曇っているか、程度だった水晶の濁りが濃くなっていく。何となくぼんやりしていただけの色合いが今目につくのはどれも黒ずんだり、底なし沼のように黒っぽい緑色がその大半を占めていてどことなく嫌な雰囲気を醸し出していた。
「あそこ、出口っぽいべ」
十数メートル先に壁に不自然な凹凸のある場所が見えた。
「行こう」
「うん」
五人でそっと中を覗き込むと、自分たちがいたところよりもはるかに大きいが形はほとんど同じ、天井がドーム型の円形の広場になっている。そこかしこに横穴があるので出口は一つじゃなさそうだが、アリの巣のようにと最初の頃にシンが言っていた。はぐれたら合流は難しいだろう。
広場の奥まった場所に、それは居た。
ぞっとするほど美しい透明な青。見上げるほどの大きさと相まって、まるで彫刻や建物のようにすら見えた。
「母さん……」
眠っているかのように横たわる、傷一つない大きな竜を見てシンが声を絞り出す。
人の形ではないので本人かどうかの区別はつかないが、まごうことなく氷属性の竜だった。
「すごい、な……こんなに美しい生き物は、初めて見た……」
角の先からしっぽまで、薄く薄く削り出した氷のような鱗に覆われていて、周囲は気温が低すぎるのかダイヤモンドダストのようにきらきらと輝いている。
サイカの、遺骸だ。
からっぽの体。
問題はそれ以外に本当に何もないところで、罠だとわかるがここで立ち止まっても仕方がないということだ。気づかれているのだから何か仕掛けてくるのは明白だ。話が通じる相手でもないかもしれない。