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「結構歩いたな」

「もう少しかなああ、こっちから風が来るでしょおお?」

 イーズが垂らしたリボンがひらひらと揺れる。緩やかな坂をずっと上がってきたような感じだからここから先も上り坂で、出口から流れ込んできているのだろう。
「シン様、緊張してる?」

「そりゃするよ。……でも平気だよ、なんか、案外怖いとは思ってないんだ」

 シンがそういうのと同時に洞窟の奥から雄たけびが聞こえてくる。アムの隠れて! という声で岩陰に身を寄せながら伺うとムカデの足が生えた蛇のような生き物がシュウシュウと不気味な音を立てながら現れる。ダンジョンでも見たことのない異形の姿に声が漏れそうになったのを必死にこらえた。

 しばらくきょろきょろと当りを見まわしたかと思うと、近くに居た大き目の虫を数匹飲み込んで枝分かれした道の奥のほうへと消えていった。

「なん、だ、あれは」

「気付かれたっぽいな……あれ召喚獣だぜっ、真第一魔法だなっ」

「あんな醜悪なものを召喚する気が知れないな」

「召喚獣自体はああ、そんなに強くもないし頭もよくないから見つかってもまあ平気だとは思うけどおお」

 ジオルグひとりでも倒せるくらい、とイーズは言うができれば手合わせはご免被る。

「結界張りながら歩いたほうがいいべな、もうばれてるんだから仕方ないべ」

「俺がやるよっ」

 アールはそういうと、手の甲を合わせ、人差し指と小指をひっかけ、残りの三本の指で輪を作る。ぶわり、となにもない空間に圧を感じた。

「施天第三魔法・永聖柱、イグニス」

 青い波のようなものが放射状に広がり周囲を取り巻くと一瞬のうちに空中に溶けて消えてしまう。

 いままで四人が魔法を使うときにこういう詠唱のようなものは使っていなかったがなにか違いがあるのかと、ついじっとアールを見つめると照れ臭そうに笑った。(もちろん顔があるわけではないのでそう見えるというだけなのだが)