「小さいころ、竜に憧れていたことがある。先祖返りじゃないことを悔しく思ったりした」

「竜族になりたかったの?」

「ああ。格好いいだろう、角も羽も牙もあるし、なにより鱗が鎧のようで。鱗と言えば、シンのこれも」

「ああー、初日にあげたやつ」

 持っていれば居場所がわかるから、と渡されたそれをポケットから出す。目の前の居るシンの、少なくとも見えるところには鱗はないけれどもたしかにあの時、袖をまくった肘より上にはびっしりと同じものが生えていた。

光源もないのにきらきらと光るそれ。シンの目も、角も、羽も鱗も、竜を構成するすべてがとても美しいと素直に思う。半分は魔法族とはいえ優性である竜の遺伝子のが強く出るそうだから竜に寄って見えるのは仕方がないのだろう。

「おとぎ話で、昔のことで、俺には関係ない話だと思っていたしまだ実感がわいているわけじゃない。どちらかというと未踏破のダンジョンに潜りにいく前日の気持ちに近いしな」

 リッツとカーミラと、早く寝よう、いやまだ準備がとわいわいやったことを思い出す。まだ二ヶ月程度、ついこの間まで一緒に居た二人はいま隣にはいないけれども。

 二人を連れてきたことは間違いだったかもしれない。その責任をどう背負って生きていけばいいのかなんて皆目見当もつかないが、少なくとも今、これから、シンとこの壁を破るためになにかするのは間違っていないと胸を張りたい。

「それ持ってなね、お守りになるよ」

「お守り? そんな大事なものなのか、これ」

「竜の鱗も爪も牙も角も全部万能薬だしそれ一枚でもジオルグが死なないくらいの力はあるよ」

 だからあげたんだけどね、というシンにはっとする。きっと本当は、リッツとカーミラのことも生きていれば助けてくれる気があったのだ。目の前で死なれたくない、というのを優先しただけで。