だから聞いたのだ、サイカに。何でも叶えてあげると。サイカに望まれればサイカに寿命を与えることも、シンの魔力供給を無理やり止めることも全部出来た。ただサイカはそれを望まなかった。知っていたはずだ、シイがそういうことができるのだと、精霊はそういうものだと、悪用したら世界が終わるほどの力を持っていると知っていたのに彼女はそれを望まなかった。望まなかったことを、どうしてシイが勝手に実行できるだろう。

 精霊は悪意や害意のそばで生きていくのを好まない。その穏やかな気質故、戦争が起これば土地から姿を消してしまうほど。

 だからこそサイカのそばにずっと居られた。彼女は痛みの中にいて、それでも誰かを恨んだりはしなかった。

 唯一愛した他種族が、誰かを侵すことを望まない。それはシイにとっての安寧でもあった。

 それを今、アマルティアが踏みつぶし、砕くための準備をしている。

「美しい記憶って、アマルティア、きみなにをしようとしてるノ」

「サイカを知る全員からサイカに関する記憶を抜き取ってサルベージするんだ、心配はないよ代わりの記憶を一時的に与えておくからね。そうして得たものを無垢な魂に張り付けて、培養するんだ。そうしたらそれは、サイカに、なる」

「反動の大きい古の魔術のはずダ、そんなことして無事で済むとでモ!?」

「大丈夫だ、なんせ、あの子は……あの子は霧氷竜だから!!!!」

「!……シンの魂を依り代にする気だナ!? そんなことしてサイカがどうなるかわからないのカ!」

「戻ってきたとてサイカにあの子の記憶はなくなるだけだよ、最初からいなかったことにすればいいんだ、そうして……そうしてもう、子供なんか作らなければいい、そうしたら、そう、シンに非があったかのような記憶を」

「アマルティア!」

 人間なら、こういう激しい気持ちにも名前をもっているのかナ。

 もうだめだ、彼はとっくにその心をあの夜に喰われてしまったんだ。早くしないと、間に合わない。研究を妨害するのもいつまでできるかわからない。どうにかして、どうにかしてシンを救わなくては。あの子の忘れ形見を、むざむざ殺させるわけにはいかない。