「お客さんかな? それとも泥棒? どっちにしても地獄へようこそ。可哀想にね、あんたら人間でしょ?」
さくさくと軽やかな足取りで、素足のまま雪の上を歩く青年は風も、雪も影響を受けておらずしれっとした態度で話しかけてくる。そもそも雪山にいる格好じゃないだろうとジオルグは目を見開く。
普通のワンピースだ。防寒対策もなにもあったものじゃない。襟巻も耳当ても手袋もなく、あまつさえ足元は素足と来ている。少しだけぴらぴらと揺れるワンピースの裾から覗くくるぶしより上も肌色だ。タイツなんかも履いていない。
どうして。門の外でも、門の目の前で、気温はマイナス五度くらいの場所だ。耳なんて出したままにしていたら凍って崩れ落ちるような場所なのに、どうして。
「お前が『語り部』か?」
「ああ、この数十年はそんな言い方になったの? 多分そうだよ」
「どうにかして出られないんですか⁉ このままじゃ私たちっ」
「死んじゃうだろうね」
にっこりと笑って、だからなんだといわんばかりの態度で青年はそういった。
絶望的な表情のカーミラとリッツがかたかたと震えるが寒さのせいではなさそうだった。