「シイ、そこにいる?」

「いるヨ。ボクはずっと、きみの近くにいるヨ」

「シンは、シンは大丈夫? 泣いてない?」

「外で花壇に水をあげてたヨ、花が咲いたらサイカの部屋に飾るんだってサ」
「まあ、たのしみ……ね」

 親から子供への魔力供給は通常一年もあればなくなるはずだ。人間でいう、断乳に近いもので、それが自然とそうなっていく。だがどういうわけかシンへの魔力供給が止まらなかった。シンの成長に伴って吸い取られる量も増えていく。

 魔力のある種族にとって、魔力というのは生命維持の要だ。だからもしそれが空になったら、たとえ生きていてもきっとその目には何も映らない。

 シイはせっせと自分の魔力をサイカに与え続けた。最近のサイカは起き上がることもままならないし、よく眠る。でも眠っている間は魔力の生成量が増えるからそれでいい。自分がそうなっても、サイカの口からは常にシンを心配している言葉ばかりが零れ落ちた。

 大丈夫、死なせるものか。精霊の魔力なんて枯渇しない泉みたいなものだ。自分がそばに居ればサイカが死ぬことなんかあるわけがない。

 亜種の弊害、と最初に言ったのは誰だったか。本当のところはわからない。けれども仮にそうであったなら、それを止める手立てもない。日に日に衰弱していく彼女に心を痛めた者も多かった。なにもできないまま太陽は昇り、星が瞬き、月は満ち欠けを繰り返す。

「わたし、ね、とっても、とっても幸せだったあ」

「サイカ?」

「シイが友達で、よかったあ。アマルティアが、わたしを、選んでくれて、シンが、生まれて……きて、くれ、て」

「……もう寝たほうがいいヨ、あんまりしゃべらないデ」

「まだ、死にたく、ないなあ……もっともっと、シンのそばに、いてあげたいなあ……シンが、大人になって、幸せでいるところに、わたしも一緒に、いたいなあ……アマルティアと、一緒に、三人で」

「……ねえ、サイカ。ボクは、まだまだずうっと、長生きするヨ。そういうものだかラ。ボクに、なにかしてほしいことはあル? なんでも、本当になんでも、ボクが叶えてあげるヨ」

 精霊にも涙があるのかとシイはその時はじめて知った。夜明け前の、白み始めた空を見ながら。ああ、彼女に明日はこないのだ、とシイはわかっていた。