あとは寿命だ。幸いシンに目立った持病や障害はなさそうだった。このまま健康に、同じだけ長く生きてくれるなら、サイカの思いはそれだけだった。母親になった彼女の愛情は分散され、アマルティアにもシンにも向いた。
それをアマルティアはあまり快く思わなかったが、表面上は問題のない家族だった。
問題があるとすれば一つだけ。母体から吸収する魔力量がアマルティアの予想より二倍ほど多かった。シイもサイカに魔力供給をし続けた。すべて吸い取られないように、体に影響がでないように。
シイ以外もそうした。サイカの父親、シンの祖父も、そうしてサイカを経由してシンに魔力を与え続けた。
それはひとえに、サイカもシンも、どちらも愛していたからゆえのことである。
たとえシンが、それを覚えていなかったとしても。
「サイカ、もっと魔力を摂らないト。精霊種の魔力なんて空気みたいなものなんだからいくらでモ……」
「ありがとうシイ、でもね、でも、できるところまで自分でしたいの。だからね、待って。私が危なくなったら、力を貸して。ね?」
自分の手で自分の子を、そういったサイカの顔は川辺で不貞腐れ泣いていたあの子供とはまるっきり違っていた。母親の顔。愛を知る顔。その腕に抱かれていたシンはたしかに愛されて祝福されていた。
また一年が過ぎた。
友人と、その夫、その子供。幸せな家族がそこにいた。
二年が過ぎた。
やっぱりうまくいっていた。
三年が過ぎた。
サイカがよく体調を崩すようになった。それでも確かに笑っていた。
四年が過ぎた。
アマルティアがサイカのためだけの薬の研究をしていた。それでも家族はかわらず、幸せなはずだった。