「シイが竜族だったらよかったのにな」
「……ボクはずうっとサイカのそばにいるヨ」
「うん。成れの果てになっても、シイだけは、私の友達でいてね」
精霊種は文明六種族の中で無生物に該当する。白翼と黒翼、精霊は雌雄の生殖を必要としないため他種族との婚姻など例がないし、必要がない。
一緒に生きていくことはできる。基本的に精霊は個人主義で、その日その日を各々が好き勝手に過ごしていて、いつか出来事に同調するためだけに死を待っている。根本的に種の在り方が違う以上、サイカの望みは夢物語と変わらなかった。
孤独と絶望。それはどの種にも付きまとう。その原因が理解できなくてもそれが痛々しい感情であれば感知能力に長けた精霊種はその痛みに同調してしまう。
サイカの痛みはシイの知る長い時間の中で、最上の痛みを持っていた。
その痛みはある日、突然姿を変えた。
「ねえ、シイ。お願いがあるんだけど……魔法族の、アマルティアのことを調べてくれない?」
アマルティアは……ああ、あの凡庸な青年のことだな、とシイは知っているだけのことを思い出す。薬品や医術に関心があるくらいであとは特に良くも悪くも特徴がない魔法使い。記憶力がいいほうであるシイがとっさに思い出せない程度には特徴がない青年だった。
「サイカにも春がきたノ?」
「そ、そんなんじゃないってば!」
精霊種は言ってしまえば世界そのものだ。だからこそ、他種族のことが好きで関心がある。自分たちが形作る世界の中で、その世界の一つの要素として生きているものに関心がある。自分たちは決してなりえないその姿を愛している。
友人であるサイカはさらに特別で、サイカが喜ぶのであればできることはなんだってしたかった。