「ねえ、シイ。また結婚を申し込まれたの」

 ぷくう、と不服そうな面持ちでサイカは膝を抱えながら川に石を投げ込んだ。ぼちゃん、と大きな音としぶきを立てて空気が揺れる。ここ数年、サイカは毎日ずっとこういう不機嫌そうな顔をしていた。

「いいことでショ、だってサイカのこと好きなんだヨ? なにがそんなに嫌なのサ」

「私がっ、……私が、亜種だからでしょ」

 私自身が好きなわけないじゃない。そう言って抱えた膝に顔をうずめた。
 両親は氷竜で、兄弟たちも氷竜。なのにサイカだけは霧氷竜だった。通常、竜族は同種と婚姻を結ぶため親と同じか、別種で交配すれば片親と同じになる。魔法使いと交配したときだけ、半分半分で特徴が出るが、身体能力や性質はどちらかというと優性である竜族に似る。

 亜種というのは竜族の中では非常に稀有な存在で、それこそ曾祖父母の曾祖父母に一人いればいいほうで、すべての竜族のポテンシャルを上回る。

 能力や生殖、すべての優劣のヒエラルキーの頂点にありながら、その希少性が遺伝することがほとんどない。だからこそ、亜種と結ばれるのに躍起になるのはある意味当然と言えた。

「私が亜種じゃなければ、誰も私のことなんて気にもしないくせに」

「そんなことないヨ! サイカは綺麗だし、優しいし、能力だって亜種とか関係なく優秀だヨ。ボクが保証するんだかラ!」

「あは、ありがと、シイ」

 サイカは恵まれた環境に居ながらいつも一人だった。友人も、恋人もいない。家族仲は悪くないが、彼女が持つ劣等感と疎外感の存在は誰も知りようがない。過酷なはずのガレリア渓谷で、何度楽に死ねたらいいかを考えたか。うっかり事故で、死にようもない。戦争もない時代に、戦火に巻き込まれることもない。

 絶望的な日々が彼女を取り巻いていた。それがどれだけ「悲しい」ことなのか、精霊は良く知っていた。

 太陽に心躍らすこともない、薫風の行き先に目線を向けず、せせらぎと共に歌うこともできない。世界中が真っ白で真っ黒で、彼女の目には何も映っていないことをシイは、シイだけは知っていた。