親の馴れ初めは知らない。でも祝福されなかったことは知ってる。魔法使いが霧氷竜を嫌ってたわけじゃないし、竜が凡庸な魔法使いを嫌ってたわけでもない。
この二人の結婚だけを、ひどく嫌がってた。理由? さあ、そこまでは。
結果、母親は死んだ。
俺が五つになった誕生日の朝に。
一息でそこまで話すとシンはふう、とため息をついて水差しに直接口を付けた。顔が赤いのは、具合が悪いのか、なにかを思い出しているのか。最初にあった日の得体のしれない彼の空気がそこにあった。
「父親はそれからしばらく何かを研究してたみたいだ。その中身も、残念ながら俺は知らない。生まれつき人類種の大人くらいの知能があったって、魔法二種族はそれよりもっと賢いからね。探るなんてのはそもそも無理なんだ」
「……父親はそれからどうした」
「狂ったようになにかを研究してた。ずっと、俺の、十八の誕生日の前日まで」
十八。今のシンの体の年齢はたしかそこで止まっていたはずだと思いだす。きっとその日が、シンの誕生日だったというその日が、シンにがこの場所に閉じ込められた日なのだろう。
あなたはテンサイね。そういわれて生きていたのももう終わる。十八になったら、俺はこの島を出ていこう。俺の顔を見なくて済むなら、きっとみんなそれがいいに決まってる。旅に出よう。世界中を自分の羽一つで飛び回ろう。そうしてこの短い生涯を静かに閉じて、いつか土に還ればいい。本気でそう思って、荷造りまでして、そんなに物もなかった自室はほとんど空っぽにして。
大人たちが俺を殺さなかったのがなんでなのかは察しが付く。殺さないというか、殺せなかったんだと思う。殺せない理由はわからない。だってダブルの幼少期はかなり弱いからね。それでも殺せないだけのなにかがあったのは本当だ。じゃなきゃ俺を疎むより前に俺のこと殺せたはずだから。
朝日が昇って、太陽と同時に目を覚ました。まだ物音のする階下に降りて父親を探した。今日までありがとう、さようならとたった一言そう言うために。
「気が付いたら、爆風と雪煙の中に居て、周りは悲鳴を上げながら逃げたり戦ったりしてたみたい。中心に俺と、父親がいた。叫んでた。狂った甲高い声で、母親の名前を」