「ジオルグって変わってるべ」
「む……そんなことないだろう」
「いーや、変わってるべ。アムたちだって長いこと人間見てるけど、人間って自分たちと違う生き物が根本的に苦手だから。大陸に居たときだって全部そうだべ」
王族の軟禁や暗殺、異種族と呼ばれた人種の非人道的な大量虐殺、植民地の先住民族の奴隷化。そういったものの話をされたと気づくまで一瞬時間がかかった。そうだ、精霊だ。自分よりも格段に長生きだ。いろんなことを知っているのは、わかっていたじゃないか。
「人類種って、文明六種族の中で一番弱いからなっ、別の生き物が怖いんだろ? それはおかしいことじゃねーよっ、やり方はともかく」
「そうねええ、だからねええ……ジオルグはわたしたちにいい、そういうこと考えないんでくれるんだなああってええ思っただけだよおお」
異種族の排除、という考え方がわからないわけではない。どちらかといえばそれが日々の飯のタネだった。親子っぽい大型の獣をどちらも斬って捨てたのは一度や二度じゃないし、そんなに大きくないが紛争地域で襲われた相手をぼこぼこにしたことだってある。自分たちが歩いた場所で、通り過ぎてきた時間の中で、禍福を幾度となく吸い込んだ。
いつだって、誰にでも、大きさこそ違えどかわるがわるそれはやってくるものだ。
自分にとって、不都合なものを消そうという考え方は今もある。それが対人ではなく、対獣のことが多いというだけで。
世界大戦はもうしばらく無いだろうが、紛争地帯はその範囲を狭めることはないし、兵士たちは銃を下ろさないだろう。国境が消え、旗が燃えても、根付いた差別や恐怖は消えたりしない。毎日、今このときもこの世界のどこかで誰かが何かを忌避している。