まだ、魔法が生きていた世界のまま、時が止まった場所。

 魔法使いも竜もいないが、「語り部」と精霊の成れの果てが棲む、精霊の墓場。

 太陽など見えることのない極寒の青い世界。

 今更ながらとんでもないところに来てしまったものだと、熱いお茶をすすりながらその体は冷え切っているような気がした。

「とにかく、話がたくさんあんのはわかったし俺がジオルグに教わらなきゃならないことも多そうだから、今日はやめておこう。飯にして、邸を案内するよ」

「そうだな、俺もシンに教わることが多そうだ」

「邸の中なら呼吸してても死なないから安心して滞在してくれていーよ、あの子たち以外に誰かいるのなんて初めてだ」

「恩に着る。ところで、なんで俺を拾う気になった?」

 ずっと気になっていた。一人なら助けてもいいとか、死んだとしても知ったことかという態度をとられたときは狂人じみて見えたのに蓋を開けてみればシンはずっと好意的だしジオルグを見殺しにする気はないらしい。

 自身の棲家、しかも本拠地にしている場所まで案内して、部屋や食事を用意して、同居人(人、ではないか)にも紹介して、外の話を聞く気があって、自分の話をしてくれる気があるらしい。

 語り部は、なんの根拠もなく異形じみた姿で描かれ、その人物像は完全な作り話だ。だからそもそも会えないとか会ったところで、とかも考えていなかったわけではない。なのにシン本人はこれだ。基本的に想定というのは最悪のパターンだけを用意するが、はいよかったねで終わることはほとんどないし、会ったとしてもリスクが伴うのが常だ。

 けれども、これは良い想定をしていたとしてもこんな厚遇であるとは考えないだろう。普通。

「昔は拾ってきたこともあったよ。でもみんなよく見積もって三日しか生きてないし、俺のこと化け物だって殺そうとしたりするし」

 困っちゃうよねー、というけれど普通に戦って勝てる相手ではないような気がする。というかこちらが害されたわけでもないのにシンを殺そうとしたという顔も知らない、過去の人間に少しだけ腹が立った。恩とか、やさしさとか、そういうものは感じなかったんだろうか。拾ってもらっておきながら。

「あんま死ぬとこ見たくねーからさ、だったらせめて俺の見てないうちに死んでほしいわけよ。それからずっと、三日生きてたら拾うって決めてんの。まあジオルグ以外に三日たってピンピンしてたやついないけどな」

「……褒め言葉だと受け取っておく」

「褒めてるって! それにジオルグ俺のこと疑わなかったし、その剣も抜かなかったろ? 俺さぁ」

 にいっと歯を見せてシンは笑った。

「本当はさ、ずっと友達がほしかったんだよね」