「シーンーさーまー! 入っていーべかー?」
「いいよ」
からからとワゴンを押してくる三人は楽しそうにカップやお菓子をテーブルに並べている。
そういえばシンは彼らを「精霊の成れの果て」と言っていた。精霊については大陸のほうが資料が多い。精霊文化学という学問もあるくらいだ。
「きみたちは、どういう存在なんだ?」
「どう、ってえ? 精霊だったもの、かなああ? 人間は尽きたあとどおなるのか知らないけどおう」
「人間って死んだら終わりなんだろっ? 精霊ってさ、死んだあとの状態があんだよな、俺らはそういうのなの」
「死んだあと?」
「シン様に聞いたほうがいいんでねが? イーズ、アール、庭の手入れすべ!」
「んだな! またあとでなっ、ジオルグ!」
見た感じは、そのサイズ感や雰囲気もあって街の子供たちとそんなに変わらないけれど精霊も竜ほどじゃないが人間よりは長命だ。死んだあと、というのであれば自分よりは年上なのだろう。
精霊が死ぬなんて話は聞いたことがない。精霊が枯渇する話は知っているがそれは死んだのではなくその土地から消えたというだけだ。ここが精霊の墓場と言われたとき首をかしげたくなったのもそのせいだった。
聞きたいことは、たくさんある。一日で終わらないであろう量を、何百年分も遡って知りたいのだから辞典も顔負けの内容量になるだろう。ただ、しばらくは出て行けそうにないから時間だけはたくさんある。幸いシンは最初からこちらに敵意がない。
「うーーーーーーん、俺、ジオルグが欲しい答えはたぶん全部は持ってないよ」
「それでも俺より正しいことを知っていると思う」
「そりゃあまあね、長生きしてるからね」
「……シンはいくつなんだ?」
「俺? さあ……ちゃんと数えたことないけど、八……いや九……うーん? 千歳くらいかな?」
たしかに罪の子の話は大体千年前だとなってるが、と開いた口がふさがらないとはまさにこのことだった。しかし、千年も生きていたらたしかに正確な歳とかはわからなくなりそうだ。
「体は十八のままだけどね。ここは時間が流れないから」
「時間が流れない?」
「あの門はいわば境界線なんだ。東西にもずっと続いてるし。この山の裏側の最北端までぐるっと全部壁。真・第九区域の結界魔法がかかってるからここでは白翼と黒翼と精霊以外の生き物は歳をとらない。死んだって凍ってるしね」
ジョークのつもり、なのだろうが全く笑えない。
つまり生きてようが死んでようがこの姿が変わらない世界だということか。それよりもジオルグは魔法の種類なんて聞いたこともないのに、こともなげに言うシンに基礎知識から仕込んでもらわないと何も理解できないのではないかと頭が痛くなった。