◇
もともとこの世界には魔法族、竜族、精霊種、白翼種、黒翼種、人類種という文明を持つ生き物が六種族存在している、というふうに言われている。
それはこの国だけじゃなく大陸にも同様の話が伝わっていて、その中で竜と魔法使いの数がやたら少ないから拠点がこの島国だったらしいということだ。要は共生関係にあって、生活圏が狭いほうが都合がよかったんだろうと解釈されている。
ほかの三種族はそもそも人型の人外なので、伝承というより信仰という形で残っている。
竜は文字通り、羽を持ち、炎を吐くような大型の爬虫類を指してのそれだ。種類がいること、大なり小なりさまざまな種類があること、高い知能を持ち異種族とも会話ができることなどざっくりした話だけは残っていて絵本で語られるくらいにはみんな知っている。彼らはまごうことなき「動物」だけれども、その理性や知能から文明六種族に数えられている。
魔法族、つまり魔法使いたちだが彼らの源流は人類種だと考えられていて、その中の魔法が使える一部の人間たちが魔法が使える者たちだけでコミュニティを形成し、分断したものだというのが通説だ。
人種と同じで白人、黒人、黄色人、魔法人、みたいなものなんじゃないかという意見もあるようだが概ね人類種からの派生説が一般的ではある。
その人間以外の五種族については謎が多い。そもそも古来より交流のない白翼種と黒翼種は置いておいて、精霊、竜、魔法使いは過去に絶対なにかしらの関りがあったのにそれがどういうものだったのかという記録が遺失している。
特に、この島国に根付いているはずの竜と魔法使いの「諍いが起きて交流を断ち、その最中生まれた子は罪の子となった」という諍いがなんなのかも知らなければ、その罪の子の正体も知らず、禁足地になっている北東西が現在どのような姿なのかさえ知らないのだ。
「東西のことも含め、グラシエル山脈の語り部がすべてを知っている……というふうにこの国の人間は考えていて、だからこそ語り部を見つけることがこの国の未知を紐解く手掛かりであり、方法であり、唯一の道だ。入ったら出られない、とは言うがどちらにしてもシンを探さなくてはどうしようもないという話で」
「ほーん、なるほどなるほど……そんな風に伝わってんのか。まあ何百年も経ってたら話が変わるのも仕方ないよなあ」
「違うのか?」
「いンや、大筋は合ってる。共生、諍い、離別、幽閉。ただ細かい話がちゃんと伝わってなくてそんなおとぎ話になってるんだなって感じがするけど」
考え込むような仕草でシンはぽきぽきと指を鳴らす。その姿は本当に、先祖返りの人間たちと何も変わらない。こんな場所でもなければ、すれ違っても気にしないだろう。声を聞かなければ男だとはわからないかもしれないが、そんな人間はどこにでもいるものだ。異形じみたものは感じない。
あるいは強すぎて自分にはわからない、という可能性を考えてジオルグは少しだけ落ち込んだ。