ガラスのハート


目覚めると、カーテン越しの柔らかな光に包まれていた。

心電図モニターが規則正しい波形を描いている。

お母さんがほっとしたようにわたしの髪を撫でた。

何度目かの浅い眠りの後に蓮さんの顔が見えた。

ほんの一瞬、トクンと心臓の音が高鳴ったような気がする。

「有羽のグラスできたよ」

半透明のプチプチに包まれたガラスを、蓮さんの長い指が取り出すのを見ていた。

ベッドを起こしてもらって、手にとってそのグラスをながめた。

歪な形のグラス。

色ガラスで描いた水玉模様。透明なガラスに溶け込んだ赤や黄緑が優しい模様を描いている。

グラスを回しながらひとつひとつ見ていくと、ふいに現れた小さなハートに思わず笑みが零れた。


「ゆがんでる」

ハート模様を見つけたことは内緒にしてそう言えば、蓮さんは笑いながら首を横に振る。

「それがいいんだよ。世界にひとつだけの有羽の作品だろ」

世界にひとつだけ……。

透明なガラスはひんやりと手の中で硬い感触を持っている。

ドロドロに溶けたオレンジ色の心臓は、今は静かに光を通して輝いている。

「手術成功して良かったな。頑張ったご褒美にこれ」

蓮さんがポケットから取り出したのは長い鎖。その先にガラス細工が光る。

天使だ……!

小さな羽を広げた天使を象ったガラス細工。

あまりに綺麗で、言葉が出てこない。

蓮さんは鎖の留め具を外して待ち構える。

わたしが少し首を前に倒すと、ふわりとタバコの匂いがした。

わたしにも羽が生えたみたいだ。窓から飛び出したいくらいに心がはねる。

わたしはその気持ちを手の中のグラスに注ぎ込むように、小さく息を吹き込んだ。

「好き」

思わず漏れた言葉を、蓮さんが「え?」って聞きかえすから、思いごとそれを蓮さんに差し出した。

「蓮さんが好き」

片手で顔を覆ってそっぽを向いた蓮さん。

わたしの顔が俯きそうになったその前に、わたしの手からグラスがなくなった。

「貰っとく」

やっぱりわたしの心臓、羽が生えたのかな?

ドキドキしても軽やかなリズムを刻んでいる。

蓮さんの胸に飛び込むのはもう少し先。