「有羽の奴がはじめて、自分もガラス作りたいって言うんだ。
俺が教えてやりてぇけど、お前がいいんだとさ」

作業場を出ていくお父さんの背中を見送る。




作業用のベンチに座ると、蓮さんが吹き竿を持ってわたしの前に跪く。

わたしが竿を転がすのに合わせて、蓮さんの肩が動くのを見ていた。

とろりと蕩けて零れ落ちそうな熱の塊は、徐々に引き伸ばされ、色を変えていく。

何度も炉に戻され、熱を与えられ、膨らみ、丸いガラスの器に変わる。

「一人でやらせて」

竿を炉に差し入れ、回転させながら形を整える。

後ろに立つ彼の熱を、炉の窓から湧き出す熱よりも感じていた。

竿からガラスを取り外す為、蓮さんが別の竿にガラス種を絡ませて持ってくる。

少しの衝撃を与えるだけで、簡単にガラスは外れる。

あとはゆっくりと冷ますだけ。

「いい形だよ。上手くできてる」

お父さんならきっとそんな風に褒めてはくれないだろう。

わたしは笑おうとしたけど、もう呼吸が上手くできないのを隠すのが難しくなって、笑えたかどうか分からない。

ベンチから転がり落ちそうになったわたしを、霞む視界の中で蓮さんが支えてくれる。

力の入らない体を、力強い腕が抱き上げたのが分かった。

ドクン、ドクン…

これは誰の心臓の音?

わたしの胸の中で熱く溶ける心臓。