春分を過ぎて、まだ少し冷たさの残る風に火照った顔を冷やしていると、蓮さんが作業場から出てきた。

有羽(ゆう)、タバコ買いに行くけど何かいるか?」

近くのコンビニに行くのだろう。作業着の上にパーカーを羽織りながら、蓮さんはわたしに声をかけてくれる。

帰ってきたらまた声をかけてもらえるように、わたしは特に欲しいわけでもないけど、いちごミルクの飴をお願いする。

蓮さんがかわいいピンクのパッケージに入った飴を、わたしのために買ってきてくれるところを想像して顔をニヤつかせるのだ。

片手を上げてバイクに跨ると、蓮さんはブロロロっと轟音を響かせて行ってしまった。

その後ろ姿を見送りながら、わたしは痛む胸を押さえた。

もう少しもってね、わたしの心臓。

来月には手術する。

それが終われば、またしばらくわたしは生きていける。

蓮さん……。

まだ柔らかに脈打つ心臓。ガラス種のように熱く溶けて形を変えながら、わたしの中で生きている。

わたしを生かすその熱が、冷めて固まる前に。

どうか一度だけ、わたしにチャンスをください。