一瞬ね、わたしの心臓溶けちゃうんじゃないかと思った。

あなたが近くて、息が止まりそうだったんだ。

熱くて熱くて、どうしようもないくらい苦しくて。

こんなに好きなのに、わたしの心臓が伝えたがってるのに、肝心な時にドロドロに溶けて形にならない。

あの短い春の日に、わたしの溶けた心臓。

今はゆっくり冷やされて透明なガラスになった。




「おい、蓮。俺の娘に手ぇだしたら承知しねぇぞ!」

そんなお父さんの勝手な言葉にも、蓮さんは黙って頷くだけ。

ガラス工房の溶解炉の前。二人が操る吹き竿にはオレンジ色のガラス種。

絶え間なく竿を回転させながら息を吹き込む。

ガラスが形を変えるほんの短い時間に、手際よく形を整え切り離す。

お父さんは手作りガラスの職人だ。蓮さんは一昨年からお父さんに弟子入りしている。

一度火を入れたら坩堝を交換するまで数ヶ月の間燃やし続ける溶解炉。小さな窓から吐き出される熱気はわたしには耐えられない。

わたしの小さな心臓は半分壊れた弁のせいで、わたしをおとなしい女のコという椅子に座らせたまま、お父さん達を過保護にしている。

もう恋だってできる歳なのに。