五.また会ったね
空にかかる虹の美しさに魅了される。
今日の仕事中実はまた彼女から電話が来た。
「この前のケーキ美味しすぎます。
そのお返しがしたいので菜の花駅前のカフェに来て欲しいです。時間は明後日の〜〜……」
一方的に集合時間と場所を決められた。
まぁ芸能人だから仕方がないが。
息が上がることに気づかない僕は家のドアを
思い切り開けて大声でただいまと言う。
当然返事のない部屋がそこには広がっている、
その夜はクローゼットの中から正装を探していた。
約束の日になった。
今日は朝から集合だと彼女は言っていたため
早めに起きて準備をする。
この季節 水道水はぬるくなっている。
なんで水の冷たさは季節と逆なのだろう。
暑い時にはぬるく。
寒い時には冷たい。
どこまで僕をいじめたいのか。
一昨日の夜準備した正装に着替え
外に出た。
これから女優とカフェ。
そこら辺の町を歩いている人たちとは
これから訪れる予定が違う。
そのことで少し優越感に浸る。
信号を待っている時も気分はアゲアゲ。
僕の心の中ではロックフェスが行われている。
自分の好きなミュージシャンを思い浮かべていると周りが ガヤガヤし始めた。
横を見ると幼児たちが先生と一緒にお散歩に来ている。
信号の近くにある人型のマークが青になった。
先生たちは直ぐに横断歩道に駆ける。
「はーい。
いちご組のみんなー。
急いで渡るよー」
いちご組であろう子供たちは各グループで固まりながら横断歩道を渡る。
その時一人の男の子が道端に座り込んでしまった。僕だって立ち止まって観察しているわけではない。
歩きながらそれを見ていた。
そのため後ろに引き返して彼を助けることを
したくても人混みの多さにすることが出来ない。
どうなる。
先生たちは他の子供たちに夢中で気づいていない。
その時彼は抱き抱えられた。
彼はきょとんとしている。
口の中に指が入っているその顔は
愛嬌のある顔だ。
抱き抱えた人は近くにいた先生に彼を預け
直ぐにその場から消えていった。
人混みの中にその人は紛れた。
黄色のパーカーという目立つ色だったが
紛れた人の軍団の中から探す気力もなく
僕は前を見て歩き出した。
カフェに着きまず驚いたのは彼女の服装だった。
黄色のパーカーに白のジーンズ。
僕はあえてその話題には触れず心の中で
彼女を尊敬した。
芸能人だからといって浮かれるのではなく
周りを常にみて人を助ける。
これは元々は誰にでもできることなのだ。
だが常に忙しい、忙しいと嘆く現代。
移動時間といった暇が出る時間でいかに彼らは
自分の心を満たすかを考えている。
そのためスマートフォンの動画だったり
漫画などを読んでいる。
実際さっきの信号でも男の子が地面に座った際
周りにいた大人たちはみんな下を見ていて
気づいていなかった。
そんな当たり前が当たり前にできない時代で
彼女は当たり前のことをやった。
その当たり前のことをやった彼女に僕は恋をした。
当たり前、当たり前とうるさいだろう。
だがうるさいと思うから当たり前ができなくなっているのだ。
確かに彼女は女優だ。
僕には到底手も足も出ない。
だが僕は画面越しに映る女優としての真鍋由紀ではなくこの目で実際に見た真鍋由紀に恋をした。
「そんなに黙りこまないでくださいよー。
この前のケーキめちゃめちゃ美味しかったですよ!!」
「ほんとですか!?いやー由紀さんに美味しいと言われるとやっぱり照れますね」
「このケーキってもしかして生地から
作ってたりしますか?」
「え、よく気づきましたね。そうなんです!」
「やっぱり!生地からも普段は感じない美味しかを感じたからそうかなって思ったんです」
気づいてくれたことに少し喜びを感じた。
彼女の笑顔。
その笑顔が素敵すぎる。
「あのー、LINE交換しませんか?」
口から出かかっていた言葉が流れるように出てしまう。
やばい。
言ってしまったあとに後悔する。
自分でも目が泳いでいるのが確かに分かる。
僕にとっては一世一代の大勝負ともいえる一言だった。
かけっこで一位を競う時。
校内テストで一番を取る時。
そんなもの比べ物にもならない。
「あっそれぐらいいいですよ!」
緊張が和らぎ食べていたパフェのスプーンを落としたということはここだけの話。
この時会計を彼女に払わせてしまったのは
今でも反省している。
『今日はお疲れ様でした』
そのメッセージとともに絵文字を送る。
すると彼女から
『こちらこそ、楽しいひとときを過ごせて良かったです』
と可愛らしいスタンプが送られてきた。
頭の中で彼女のことを考える。
顔、髪、手、後ろ姿、子供を助けたあの姿
全てが可愛らしく勇敢な姿だった。
冷蔵庫からビールを取りだし蓋を開ける。
爽快な音と一緒にやってくるのは白い泡。
こぼれそうになったので急いで口にそれを運ぶ。
脳にまで響くこの味。
やっぱり夜はビールに限るな。
携帯をいじりながらネットニュースを見る。
普段テレビでのニュースはそこまで見ない。
時間的にちょうど見ないという理由もあるのだが
一番は難しすぎるためだ。
政治やらなんやらでこっちが求めているようなニュースがいつまで経っても流れない。
ボーッと次のニュースになるまで待っていて
気がつけば番組自体終わっているというオチだ。
ネットニュースを開くと大きい見出しに
『人気女優・真鍋由紀 ドラマ主演決定』
となっていた。
喜ばしいことだ。
今日あった彼女が何やら漫画の実写ドラマ化の主役として抜擢されたようだ。
確かに納得だ。
残り一口になったビールの缶の中身を口に流し込みゴミを捨てる。
そして寝た。
彼女ともっと過ごしたい。
そういう寝言を発していたのもこの時期だった。
空にかかる虹の美しさに魅了される。
今日の仕事中実はまた彼女から電話が来た。
「この前のケーキ美味しすぎます。
そのお返しがしたいので菜の花駅前のカフェに来て欲しいです。時間は明後日の〜〜……」
一方的に集合時間と場所を決められた。
まぁ芸能人だから仕方がないが。
息が上がることに気づかない僕は家のドアを
思い切り開けて大声でただいまと言う。
当然返事のない部屋がそこには広がっている、
その夜はクローゼットの中から正装を探していた。
約束の日になった。
今日は朝から集合だと彼女は言っていたため
早めに起きて準備をする。
この季節 水道水はぬるくなっている。
なんで水の冷たさは季節と逆なのだろう。
暑い時にはぬるく。
寒い時には冷たい。
どこまで僕をいじめたいのか。
一昨日の夜準備した正装に着替え
外に出た。
これから女優とカフェ。
そこら辺の町を歩いている人たちとは
これから訪れる予定が違う。
そのことで少し優越感に浸る。
信号を待っている時も気分はアゲアゲ。
僕の心の中ではロックフェスが行われている。
自分の好きなミュージシャンを思い浮かべていると周りが ガヤガヤし始めた。
横を見ると幼児たちが先生と一緒にお散歩に来ている。
信号の近くにある人型のマークが青になった。
先生たちは直ぐに横断歩道に駆ける。
「はーい。
いちご組のみんなー。
急いで渡るよー」
いちご組であろう子供たちは各グループで固まりながら横断歩道を渡る。
その時一人の男の子が道端に座り込んでしまった。僕だって立ち止まって観察しているわけではない。
歩きながらそれを見ていた。
そのため後ろに引き返して彼を助けることを
したくても人混みの多さにすることが出来ない。
どうなる。
先生たちは他の子供たちに夢中で気づいていない。
その時彼は抱き抱えられた。
彼はきょとんとしている。
口の中に指が入っているその顔は
愛嬌のある顔だ。
抱き抱えた人は近くにいた先生に彼を預け
直ぐにその場から消えていった。
人混みの中にその人は紛れた。
黄色のパーカーという目立つ色だったが
紛れた人の軍団の中から探す気力もなく
僕は前を見て歩き出した。
カフェに着きまず驚いたのは彼女の服装だった。
黄色のパーカーに白のジーンズ。
僕はあえてその話題には触れず心の中で
彼女を尊敬した。
芸能人だからといって浮かれるのではなく
周りを常にみて人を助ける。
これは元々は誰にでもできることなのだ。
だが常に忙しい、忙しいと嘆く現代。
移動時間といった暇が出る時間でいかに彼らは
自分の心を満たすかを考えている。
そのためスマートフォンの動画だったり
漫画などを読んでいる。
実際さっきの信号でも男の子が地面に座った際
周りにいた大人たちはみんな下を見ていて
気づいていなかった。
そんな当たり前が当たり前にできない時代で
彼女は当たり前のことをやった。
その当たり前のことをやった彼女に僕は恋をした。
当たり前、当たり前とうるさいだろう。
だがうるさいと思うから当たり前ができなくなっているのだ。
確かに彼女は女優だ。
僕には到底手も足も出ない。
だが僕は画面越しに映る女優としての真鍋由紀ではなくこの目で実際に見た真鍋由紀に恋をした。
「そんなに黙りこまないでくださいよー。
この前のケーキめちゃめちゃ美味しかったですよ!!」
「ほんとですか!?いやー由紀さんに美味しいと言われるとやっぱり照れますね」
「このケーキってもしかして生地から
作ってたりしますか?」
「え、よく気づきましたね。そうなんです!」
「やっぱり!生地からも普段は感じない美味しかを感じたからそうかなって思ったんです」
気づいてくれたことに少し喜びを感じた。
彼女の笑顔。
その笑顔が素敵すぎる。
「あのー、LINE交換しませんか?」
口から出かかっていた言葉が流れるように出てしまう。
やばい。
言ってしまったあとに後悔する。
自分でも目が泳いでいるのが確かに分かる。
僕にとっては一世一代の大勝負ともいえる一言だった。
かけっこで一位を競う時。
校内テストで一番を取る時。
そんなもの比べ物にもならない。
「あっそれぐらいいいですよ!」
緊張が和らぎ食べていたパフェのスプーンを落としたということはここだけの話。
この時会計を彼女に払わせてしまったのは
今でも反省している。
『今日はお疲れ様でした』
そのメッセージとともに絵文字を送る。
すると彼女から
『こちらこそ、楽しいひとときを過ごせて良かったです』
と可愛らしいスタンプが送られてきた。
頭の中で彼女のことを考える。
顔、髪、手、後ろ姿、子供を助けたあの姿
全てが可愛らしく勇敢な姿だった。
冷蔵庫からビールを取りだし蓋を開ける。
爽快な音と一緒にやってくるのは白い泡。
こぼれそうになったので急いで口にそれを運ぶ。
脳にまで響くこの味。
やっぱり夜はビールに限るな。
携帯をいじりながらネットニュースを見る。
普段テレビでのニュースはそこまで見ない。
時間的にちょうど見ないという理由もあるのだが
一番は難しすぎるためだ。
政治やらなんやらでこっちが求めているようなニュースがいつまで経っても流れない。
ボーッと次のニュースになるまで待っていて
気がつけば番組自体終わっているというオチだ。
ネットニュースを開くと大きい見出しに
『人気女優・真鍋由紀 ドラマ主演決定』
となっていた。
喜ばしいことだ。
今日あった彼女が何やら漫画の実写ドラマ化の主役として抜擢されたようだ。
確かに納得だ。
残り一口になったビールの缶の中身を口に流し込みゴミを捨てる。
そして寝た。
彼女ともっと過ごしたい。
そういう寝言を発していたのもこの時期だった。