「森は、領土など関係なく、どんな人でも受け入れてくれるのに」

アレスは答えた。

「うん。どんな所なのですか?」

ノキルは訊ねる。

「とても自然が豊かな場所です。馬のひずめの音も荷車の車輪の音も無い。動物の楽園です」

「ふーん、行ってみたいな。アレスさんの故郷に」

ノキルの表情に儚さが映る。

「いつか、行ける時が来たら、一緒に行きましょう」

「うん、行きましょう!」

アレスの返信に、ノキルは、表情をぱあっと明るくして答える。

「さて、練習を再開しましょうか」

アレスは立ち上がる。

「はい!」

ノキルも立ち上がる。

「今度は、演舞ではなく、実戦練習を行います。この練習場の敷地内を全て使い、木刀を相手の鎧に当てたら勝ちとします」

「はい!」

ノキルとアレスは兜を被り、木刀を構える。

「始め!」

アレスの掛け声と共に、ノキルは、すかさず、右足を踏み込み、アレスに攻撃する。

アレスは、その攻撃をするりと避ける。

「昨日も同じ戦術でしたよ。周囲に目を配り、ありとあらゆる物を利用するのです」

ノキルは、苦味を奥歯で噛み締めて、再び、アレスに立ち向かう。

ノキルは、右足を踏み込み、アレスの間合いの内側に入る。

そして、木刀を下段に持ち替えて、下から上へ木刀を斬り上げる。

アレスは、速やかにノキルの右側に入り込む。

そして、ノキルの右足に足をかけて、右肩を押して、上体を倒した。

ノキルは体勢を崩して、地面へ転倒する。

転倒する瞬間、視界に地面が迫る恐怖心から目を瞑る。

「目を閉じてはいけません。倒れる事が敗北ではなく、それをチャンスにするのです」

アレスは言う。

ノキルはアレスの言葉を聞いて、木刀を固く握り、転倒したまま、アレスの足首に木刀を斬りかかった。

アレスはさっと片足を上げて、ノキルの攻撃を避ける。

ノキルの木刀の先端が地面についている。

アレスはノキルの木刀と地面の間に木刀を入れ込み、すくい上げるようにふるい上げた。

その力に耐えられず、ノキルの手から木刀が離れた。

木刀が空中で回る。

木刀がノキルの真上に落ちていく。

ノキルは、痛みを避けようと、両腕で顔を覆い、身構える。

それを見た、アレスは、素早く木刀の刃をノキルの木刀に向ける。

そして、ノキルの木刀に、木刀を当てて、弾き飛ばした。

ノキルは、胸を撫で下ろした。

「刀はどんな事があっても、手から離してはいけません。敵に刀が渡ったら、自らの刀で殺されます」

アレスは、ノキルに手を差し伸べる。

ノキルは、そのアレスの手を取る事なく、自力で立ち上がる。

「もう一度、お願いします」

ノキルは、木刀を持ち、真剣な眼差しで対峙した。