ノキルは、アルス様に教授を受けていた記憶を思い出していた。

剣技の訓練の小休憩のひと時。

ノキルは、くったくたになった体をどさっと地面に下ろして、尻をついた。

両足をだらんと前に伸ばしている。

両腕を背後に伸ばし、地面に手をつく。

背をのけ反り、空を見上げた。

空に鱗雲が広がり、乾いた風がそよかに通り過ぎる。

その風は、むわっとした湿気が充満する鎧の隙間を通り過ぎ、汗に濡れた肌を心地よく冷やす。

ノキルは、兜を取った。

「そう言えば、アルスさんは、どうして、この国に仕えようと思ったのですか? アルスさんなら、皇国に仕えられるのでは」

アルスは、ノキルの隣に座る。

アルスも兜を取った。

短い髪から、汗が、きらきらと飛び散る。

「こちらの国の領地に、故郷があるんです」

アルスは答える。

「ああ、こんなに何度も剣を交えているのに、故郷も知らなかった。どこの生まれです?」

「西方に在る森の奥地の小さな集落です」

「あの森か。国境の上に在る森だから、王族は立ち入ってはいけないって言われています」

「どうしてですか?」

「森の中だと、どこからが隣国の領土になるかがわかりづらいからです」

「森に線を引く事もできませんからね」

「うん。例え間違いでも、王族が隣国の領土に踏み入れたら、国同士の大事になってしまうと、国王様が注意喚起してます」