私は王宮殿の天守から城下を見ている。

王宮殿の塀の外に続く道には、出店が並ぶ。

その奥には、噴水のある広場が見える。

噴水を囲むように出店が並び、賑わっている。

国一番に栄える商業地だ。

その広場を中心に放射線状に居住地が広がる。

忙しなく働く国民が見える。

人と話し、物と金貨を交換する。

互いが笑顔を見せ合い、会話を楽しんでいる。

子供達は満面な笑みで駆けたり、木を剣に見立てて争いごっこをする。

女性同士は会話で互いの立場や価値観を共有している。

まもなく、この国も復興する。

この時まで幾つの年が経ったか。

私は一つ小さく頷き、復興を遂げてみせると誓った。

 「エシア様ー」

頭上から声がした。

私は、空を見上げる。

綿雲の浮かぶ青空が広がっている。

綿雲は白く、空は青く、色彩が一際鮮やかだ。

その空に一体のペガサスがいた。

翼をゆっくりと羽ばたかせて空に浮かび止まっている。

ペガサスは人の何倍もの大きさで、くすみ一つない真っ白な姿。

羽根の一枚一枚に太陽光が当たり、きらきらと煌びやかに反射する。

そのペガサスに乗る一人の女性。

私の親衛兵のミーアだ。

ミーアは私に手を振っている。

私も手を振り返して応える。

ミーアの可憐な笑みが綻ぶのが見える。

ミーアは綱でペガサスに指示を与え、私の元へ高度を下げる。

天守まで近づき、私と目線を合わせる高度で停空する。

ペガサスは翼を大らかに羽ばたかせている。

翼は周囲の空気を操り、柔らかな風を作る。

その柔らかな風が私の体を通り過ぎる。

「エシア様ー。一緒に空のお散歩に行きましょー」

ミーアは明るい笑顔で言う。

「ごめんね、ミーア。色々とやらなければならない事があるから、他の人と行ってらっしゃい」

私は腹部の前で右手を左手でそっと覆う。

「もうずっと、一緒に空のお散歩に行ってないじゃないですかー」

ミーアは頬を膨らませて口を尖らせている。

「たまには、気晴らしに出かけてはいかがでしょう。元老の小言は私が引き受けますので」

一人の女性が天守に上がってきて、私に言う。

私の親衛隊長のノキルだ。

ノキルの長い髪がさらさらと風に乗る。

ノキルはまさに才色兼備だ。

王宮の兵の誰よりも剣術に長け、兵の訓練を指導している。

それだけではなく、政務から機密保持、議会の司会進行も携わる。

その秀才ぶりは、本国を超えて他国にも評判が高い。

私の身の回りの世話から、私の愚痴まで聞いてくれる。

私は側近としても私情としても、誰よりもノキルを頼りにしている。

「いいえ。私は大丈夫ですわ」

エシアは答える。

「わかりましたー。誰と行こうかなー」

ミーアは残念な顔を残して、空へ上昇する。

「よろしいのですか?」

ノキルは訊ねる。

「ええ」

エシアは答えた。

「それよりも、何かあったの?」

エシアは訊ねる。

「はい、お察しの通り、また、元老がエシア様にお目通りを要求しています」

「はぁ、また、あのおじさんね。今日も、西方にある森の領権を譲ってほしいって話よね。昨日も来たのにしつこいんだから」

「もしよろしければ、私のほうで丁重にお断りもできます」

ノキルは左腰にある剣の鞘に手を添えて言う。

「いいのよ、私は納得していただけるまで何度も説明するわ。あの森は大切にしたいの。だから、譲れない」

「エシア様のその曲がらないご意志に従います」

「さ、行くわよ」

エシアは、くるっと後ろに体を向けて、ノキルと王宮殿へ向かった。