学校が終わればアタシは帰らず、
通学用自転車でそのままアルバイト先に向かう。
母親の紹介で近所の天ぷら屋でバイトを始め、
高校入学から既に1年お世話になっている。
最初は揚げるだけだと思ってた天ぷらも、
『衣で蒸す』と知って調理の奥深さを知った。
今では接客だけじゃなく、
仕込みもたまに手伝わせて貰っている。
ピーク前にまかないを貰い、
20時にはバイトが終わる。
閉店間際のスーパーに駆け込み
晩ご飯のおかずと朝ご飯の食パン、
それから弁当の材料を買う。
たまにスーパーでウザい人に絡まれる。
家主の知り合いだというが、
無関係なアタシにとっては迷惑極まりない。
自転車で夜道を走るたびに思うのが、
早くこの街を出たいってこと。
(あと2年の辛抱だ。)
アタシはアタシにそう言い聞かせる。
マンションの最上階にアタシの部屋がある。
家主はアタシじゃないからアタシの家じゃない。
着替えてお風呂の用意をし、洗濯物をたたみ、
遅い晩ご飯の支度をする。
アタシは勉強をして家主の帰りを待つ。
進路調査はなんて書けばいいか、
いまのうちに考えておきたい。
いまのご時世できれば大学か
専攻に通っておきたいけど、
学費の問題が立ちはだかる。
自由にできるお金など持ち合わせてない。
就職ならせめてひとり暮らしがいいけど、
いまはこんな小さな欄に書ける目標もない。
ペンを握る手が止まる。
「真円ぁー、ただいまー。
サクラ、ほれ、しっかりしろぉ?」
「しゃちょぉー…。もうムリぃ…。」
「ふんばれ、サクラぁ。」
「…おかえりなさい。」
進路調査票を裏返して、家主と
アタシと同じ居候のサクラちゃんを出迎えた。
「ふたりとも、ご飯は?」
「今日は食べませーん。酔ってるので。
真円、サクラの面倒見てあげて。
あたし、先にシャワーあびるから。」
家主は服や下着さえも廊下に脱ぎ捨て、
脱衣所に逃げて行った。
「まどちゃぁーんー。」
家主の服を拾っていると、
玄関で靴も脱げずに倒れている
サクラちゃんが救難信号を発した。
トイレへ引きずったが、入った途端に
胃の中の液体を吹き出し床を汚した。
「ごべーん…。」
「大丈夫。掃除するから。全部吐いちゃって。」
「ありがどぉねぇ。」
顔中液体まみれにして謝罪するサクラちゃんは、
去年から家主の経営する店で
住み込みで働いている居候。
アタシの味方。だけど家主の部下。
「これ美味しいねぇ。」
「おばあちゃん直伝だからね。」
サクラちゃんが筍のおひたしをついばみ、
頬を緩めて舌鼓を打つ。
祖母から教わった料理を褒められるのは嬉しい。
アタシは気を抜くとすぐ太る体質なので、
量も控えめにして食べる。
バイトのまかない込みで、
1日4食も食べたら当然だ。
それにもう日付は変わってる。
「これで彼氏でもいたらヤバいよね。」
「いるよ。」
「ウソぉ? いまいないって
まえ言ってたじゃん! 言ってたよね?」
「今日できた。」
「誰よ! 元カレ? 元サヤ?
教えて! 後生だから!」
「なんでそんな必死なの。
毎日ベロベロに酔って大丈夫?」
「大丈夫。わたし、独身。22歳。
独立目指して頑張ってまーす。
お酒飲むのはハッピーだから。」
「そうなんだ。」
「まどちゃんは彼氏できて
デートあってハッピーじゃない?」
「別に…。普通?
デートそんな好きじゃないし。」
「好きじゃないの? じゃナニやってんの!
肉食系なの? ウソでしょ?」
「ウソじゃない。肉食でもない。
アタシ、バイトしてるし。
サクラちゃんの世話で忙しいの。」
「はー…なにそれー。
え、学校は? ちゃんと通ってる?」
「通ってますよ。クラス委員だし。」
「えー! スゴ…。マジ?」
「マジ。これでも去年1年
クラス委員長だったんだよ。」
「ウソぉ!
なに、まどちゃん、優等生じゃん。」
「去年もやったし…。」
「ごめーん、たぶん酔ってて覚えてない。
委員長で料理もめちゃできる…スペック高っ!
社長うらやましー。
将来はあと継いだりするの?」
「はぁ? するわけないじゃん。」
嫌悪感で思わず口が悪くなった。
サクラちゃんの社長こと、マンションの
家主とアタシは母娘で血縁関係だけど、
あとを継ぐなど冗談でも絶対にいやだ。
「地雷踏み抜いた。
あーん、反抗期だー。」
「うっさい。酔っぱらい。」
「真円ー。シャワー上がったよ。」
「あ、…はい。」
タイミングが悪い。
素っ裸にバスタオル1枚肩に掛けて
家主がリビングに現れた。
「社長、相変わらずスタイルいいね。」
「サクラも酒ばっか飲んでると
すぐブヨっからジム通いなよ。」
「食事中に言われてもムリでーす。」
「じゃ、先にお風呂いただきます。」
「なにこれ。進路調査…へぇ。懐かし。」
食器をシンクに片付けに席を立つと、
目ざとい家主に進路調査票を見つけられた。
最悪…。
「まどちゃん、社長のあとは継がないって。」
「サクラちゃん、変なこと言わないで!」
「継がせるわけないわよ。
あたしまだ32だし。引退する気ないもの。」
「若すぎー。」
家主は16歳でアタシを産んだ。
父親は当時付き合っていた同級生の誰か、らしい。
アタシは知ってるけど。
そのまま高校を卒業して大学で経営を学び、
今はバーを経営している。
親の経歴のおかげで変なあだ名も付けられた。
子供は親を選べない。
子供のアタシは腫れ物みたいに、
祖父母の元に預けられた。
家事がひと通りできるのも、
自分が役に立つと示したいから。
誰かのお願いを受けても、
なるべく断らないでいた。
そうやって生きてきたから、
いまは自分がなにをしたいか分からなかった。
去年のいま頃になって
アタシはこの人の家に転がり込んだ。
入居そうそう家主にバイト先を紹介され、
学費や光熱費の立て替えに月6万円の
家賃を支払っている。
そこから服代なんかを引いたら、
遊ぶお金なんて手元に残らない。
だからアタシもサクラちゃんと同じ居候。
「それ返してください。」
「はい。あげる。怒ってんの?」
「別に!」
「あーあ、怒らせたー。」
「はぁー? あたしのせいじゃないでしょ?」
ふたりの声を背にして、
着替えを取りに部屋に逃げ込んだ。
はっきり目標を持っていないアタシは
アタシに腹が立っただけなのに、
八つ当たりっぽくなって余計に情けなかった。
――――――――――――――――
気分は曇り。
学校では副委員の重松が
アタシにつきまとった。
身体測定は一緒に計測し、体力測定でのペアに、
移動教室では隣の席に陣取り、
お手洗いに至るまで彼女のつきまといは続いた。
アタシがナニしたっていうんだ。
お昼休みにはアタシは
弁当を持って教室からさっさと逃げて、
非常階段で食事をするのが常となった。
春の陽気に浮かれた男女が、
ひと気のない校舎の影で仲睦まじく
食事『など』を行っている。
生徒指導も時間の問題だ。
ウチの高校の偏差値はそんなに低くはないけど、
重松が高校生やれてるぐらいには生徒に甘い。
少子化の影響で定員割れを起こした高校だ。
だからか知らないけど学校内での不純異性交遊は、
よっほどのことじゃなきゃ校則の規定に反しない。
生徒会長もあの調子でアタシに告白した。
それに生徒指導が入る頃には、
だいたい手遅れだったりする。
地上を見下ろしながら食べる今日の弁当は、
火加減と味付けにすこし失敗した野菜炒め。
アタシのいない間に、
アタシのウワサは教室でひとり歩きを始めていた。
「とっかえひっかえ。」
「朝まで男と遊んでいる。」
「カエルの子はカエル。」
わざわざ訂正するのも面倒だし、
もとより教室に居場所はなかった。
アタシのウワサ話を広めているのは、
男子ではなく決まって女子だったりする。
事実はねじ曲がって伝わる伝言ゲームで、
アタシは伝説のモンスターみたいになった。
女の敵は女とはよく言ったもんだ。
金曜日、ようやく学校に開放されると思った週末。
クラス委員ふたり揃って職員室に呼び出された。
「あのなぁ、新年度早々こんなことで
呼び出すなんてしたくはないんだが。」
「はい。そうですね。こんなことで、
アタシも呼び出されたくはありません。」
「わかってんのか。
進路指導の先生から怒られるのは俺だぞ。」
「それは甘んじて受け入れてください。」
「天沢ぁ…。
お前も調査票出してないんだぞ。」
「その件は重松さんに一任してました。
期限についてアタシは報告も受けてません。」
「進捗確認するのも委員長の役目だろ。」
「じゃあ副委員の役目ってなんですか?
重松さん、向いてないんじゃないですか?」
その重松さんはさっきからひと言も発せず、
ずっとうつむいている。
担任教師とアタシが誰のせいでここにいるのか、
このトラブルメーカーは自覚しているのかな。
「そう言うなよ、天沢ぁ。
重松は自分から副委員に立候補したんだ。
天沢は去年もやってたんだから、
サポートくらいできるだろ。」
副委員をサポートするのが委員長の仕事じゃない。
分かっていておかしなことを言っている。
「はぁ…。先生が委員に求められるのは、
汗水流した努力よりも目先の結果ですよね。
その問題の解決って結局、本人次第ですよ。」
アタシは反抗期。
理想と日和見を掲げるこの先生に対し、
アタシなりの意見を述べて職員室を出たら、
ずっと黙っていた地蔵がしゃべった。
「ごめんなさい…、ママ。」
「アタシ、あんたのママじゃないし。」
そのあだ名で呼ばれるのは好きじゃない。
「このくらいできないなら、
さっさと辞めた方がいいよ。」
突き放した方が、お互いのためだと思う。
「アタシ、バイトあるから。
いつまでに集められるの?」
「日曜…。」
「は?」
「日曜、デート、だよね。」
「盗み聞きしてたの?」
「だって、教室…だったから。」
「あんたに関係ないでよね?
進路調査、さっさと集めてよね。
じゃあ、サヨナラ。」
廊下を足早に歩き、バイト先まで
自転車を盛り漕ぎする。
つきまとわれた挙げ句に、
任せた仕事ひとつもこなしていない。
そのくせに馴れ馴れしく、
アタシをイヤなあだ名で呼ぶ。
あの子もウワサ話を知っているに違いない。
アタシは確実に重松にイラだっていた。
通学用自転車でそのままアルバイト先に向かう。
母親の紹介で近所の天ぷら屋でバイトを始め、
高校入学から既に1年お世話になっている。
最初は揚げるだけだと思ってた天ぷらも、
『衣で蒸す』と知って調理の奥深さを知った。
今では接客だけじゃなく、
仕込みもたまに手伝わせて貰っている。
ピーク前にまかないを貰い、
20時にはバイトが終わる。
閉店間際のスーパーに駆け込み
晩ご飯のおかずと朝ご飯の食パン、
それから弁当の材料を買う。
たまにスーパーでウザい人に絡まれる。
家主の知り合いだというが、
無関係なアタシにとっては迷惑極まりない。
自転車で夜道を走るたびに思うのが、
早くこの街を出たいってこと。
(あと2年の辛抱だ。)
アタシはアタシにそう言い聞かせる。
マンションの最上階にアタシの部屋がある。
家主はアタシじゃないからアタシの家じゃない。
着替えてお風呂の用意をし、洗濯物をたたみ、
遅い晩ご飯の支度をする。
アタシは勉強をして家主の帰りを待つ。
進路調査はなんて書けばいいか、
いまのうちに考えておきたい。
いまのご時世できれば大学か
専攻に通っておきたいけど、
学費の問題が立ちはだかる。
自由にできるお金など持ち合わせてない。
就職ならせめてひとり暮らしがいいけど、
いまはこんな小さな欄に書ける目標もない。
ペンを握る手が止まる。
「真円ぁー、ただいまー。
サクラ、ほれ、しっかりしろぉ?」
「しゃちょぉー…。もうムリぃ…。」
「ふんばれ、サクラぁ。」
「…おかえりなさい。」
進路調査票を裏返して、家主と
アタシと同じ居候のサクラちゃんを出迎えた。
「ふたりとも、ご飯は?」
「今日は食べませーん。酔ってるので。
真円、サクラの面倒見てあげて。
あたし、先にシャワーあびるから。」
家主は服や下着さえも廊下に脱ぎ捨て、
脱衣所に逃げて行った。
「まどちゃぁーんー。」
家主の服を拾っていると、
玄関で靴も脱げずに倒れている
サクラちゃんが救難信号を発した。
トイレへ引きずったが、入った途端に
胃の中の液体を吹き出し床を汚した。
「ごべーん…。」
「大丈夫。掃除するから。全部吐いちゃって。」
「ありがどぉねぇ。」
顔中液体まみれにして謝罪するサクラちゃんは、
去年から家主の経営する店で
住み込みで働いている居候。
アタシの味方。だけど家主の部下。
「これ美味しいねぇ。」
「おばあちゃん直伝だからね。」
サクラちゃんが筍のおひたしをついばみ、
頬を緩めて舌鼓を打つ。
祖母から教わった料理を褒められるのは嬉しい。
アタシは気を抜くとすぐ太る体質なので、
量も控えめにして食べる。
バイトのまかない込みで、
1日4食も食べたら当然だ。
それにもう日付は変わってる。
「これで彼氏でもいたらヤバいよね。」
「いるよ。」
「ウソぉ? いまいないって
まえ言ってたじゃん! 言ってたよね?」
「今日できた。」
「誰よ! 元カレ? 元サヤ?
教えて! 後生だから!」
「なんでそんな必死なの。
毎日ベロベロに酔って大丈夫?」
「大丈夫。わたし、独身。22歳。
独立目指して頑張ってまーす。
お酒飲むのはハッピーだから。」
「そうなんだ。」
「まどちゃんは彼氏できて
デートあってハッピーじゃない?」
「別に…。普通?
デートそんな好きじゃないし。」
「好きじゃないの? じゃナニやってんの!
肉食系なの? ウソでしょ?」
「ウソじゃない。肉食でもない。
アタシ、バイトしてるし。
サクラちゃんの世話で忙しいの。」
「はー…なにそれー。
え、学校は? ちゃんと通ってる?」
「通ってますよ。クラス委員だし。」
「えー! スゴ…。マジ?」
「マジ。これでも去年1年
クラス委員長だったんだよ。」
「ウソぉ!
なに、まどちゃん、優等生じゃん。」
「去年もやったし…。」
「ごめーん、たぶん酔ってて覚えてない。
委員長で料理もめちゃできる…スペック高っ!
社長うらやましー。
将来はあと継いだりするの?」
「はぁ? するわけないじゃん。」
嫌悪感で思わず口が悪くなった。
サクラちゃんの社長こと、マンションの
家主とアタシは母娘で血縁関係だけど、
あとを継ぐなど冗談でも絶対にいやだ。
「地雷踏み抜いた。
あーん、反抗期だー。」
「うっさい。酔っぱらい。」
「真円ー。シャワー上がったよ。」
「あ、…はい。」
タイミングが悪い。
素っ裸にバスタオル1枚肩に掛けて
家主がリビングに現れた。
「社長、相変わらずスタイルいいね。」
「サクラも酒ばっか飲んでると
すぐブヨっからジム通いなよ。」
「食事中に言われてもムリでーす。」
「じゃ、先にお風呂いただきます。」
「なにこれ。進路調査…へぇ。懐かし。」
食器をシンクに片付けに席を立つと、
目ざとい家主に進路調査票を見つけられた。
最悪…。
「まどちゃん、社長のあとは継がないって。」
「サクラちゃん、変なこと言わないで!」
「継がせるわけないわよ。
あたしまだ32だし。引退する気ないもの。」
「若すぎー。」
家主は16歳でアタシを産んだ。
父親は当時付き合っていた同級生の誰か、らしい。
アタシは知ってるけど。
そのまま高校を卒業して大学で経営を学び、
今はバーを経営している。
親の経歴のおかげで変なあだ名も付けられた。
子供は親を選べない。
子供のアタシは腫れ物みたいに、
祖父母の元に預けられた。
家事がひと通りできるのも、
自分が役に立つと示したいから。
誰かのお願いを受けても、
なるべく断らないでいた。
そうやって生きてきたから、
いまは自分がなにをしたいか分からなかった。
去年のいま頃になって
アタシはこの人の家に転がり込んだ。
入居そうそう家主にバイト先を紹介され、
学費や光熱費の立て替えに月6万円の
家賃を支払っている。
そこから服代なんかを引いたら、
遊ぶお金なんて手元に残らない。
だからアタシもサクラちゃんと同じ居候。
「それ返してください。」
「はい。あげる。怒ってんの?」
「別に!」
「あーあ、怒らせたー。」
「はぁー? あたしのせいじゃないでしょ?」
ふたりの声を背にして、
着替えを取りに部屋に逃げ込んだ。
はっきり目標を持っていないアタシは
アタシに腹が立っただけなのに、
八つ当たりっぽくなって余計に情けなかった。
――――――――――――――――
気分は曇り。
学校では副委員の重松が
アタシにつきまとった。
身体測定は一緒に計測し、体力測定でのペアに、
移動教室では隣の席に陣取り、
お手洗いに至るまで彼女のつきまといは続いた。
アタシがナニしたっていうんだ。
お昼休みにはアタシは
弁当を持って教室からさっさと逃げて、
非常階段で食事をするのが常となった。
春の陽気に浮かれた男女が、
ひと気のない校舎の影で仲睦まじく
食事『など』を行っている。
生徒指導も時間の問題だ。
ウチの高校の偏差値はそんなに低くはないけど、
重松が高校生やれてるぐらいには生徒に甘い。
少子化の影響で定員割れを起こした高校だ。
だからか知らないけど学校内での不純異性交遊は、
よっほどのことじゃなきゃ校則の規定に反しない。
生徒会長もあの調子でアタシに告白した。
それに生徒指導が入る頃には、
だいたい手遅れだったりする。
地上を見下ろしながら食べる今日の弁当は、
火加減と味付けにすこし失敗した野菜炒め。
アタシのいない間に、
アタシのウワサは教室でひとり歩きを始めていた。
「とっかえひっかえ。」
「朝まで男と遊んでいる。」
「カエルの子はカエル。」
わざわざ訂正するのも面倒だし、
もとより教室に居場所はなかった。
アタシのウワサ話を広めているのは、
男子ではなく決まって女子だったりする。
事実はねじ曲がって伝わる伝言ゲームで、
アタシは伝説のモンスターみたいになった。
女の敵は女とはよく言ったもんだ。
金曜日、ようやく学校に開放されると思った週末。
クラス委員ふたり揃って職員室に呼び出された。
「あのなぁ、新年度早々こんなことで
呼び出すなんてしたくはないんだが。」
「はい。そうですね。こんなことで、
アタシも呼び出されたくはありません。」
「わかってんのか。
進路指導の先生から怒られるのは俺だぞ。」
「それは甘んじて受け入れてください。」
「天沢ぁ…。
お前も調査票出してないんだぞ。」
「その件は重松さんに一任してました。
期限についてアタシは報告も受けてません。」
「進捗確認するのも委員長の役目だろ。」
「じゃあ副委員の役目ってなんですか?
重松さん、向いてないんじゃないですか?」
その重松さんはさっきからひと言も発せず、
ずっとうつむいている。
担任教師とアタシが誰のせいでここにいるのか、
このトラブルメーカーは自覚しているのかな。
「そう言うなよ、天沢ぁ。
重松は自分から副委員に立候補したんだ。
天沢は去年もやってたんだから、
サポートくらいできるだろ。」
副委員をサポートするのが委員長の仕事じゃない。
分かっていておかしなことを言っている。
「はぁ…。先生が委員に求められるのは、
汗水流した努力よりも目先の結果ですよね。
その問題の解決って結局、本人次第ですよ。」
アタシは反抗期。
理想と日和見を掲げるこの先生に対し、
アタシなりの意見を述べて職員室を出たら、
ずっと黙っていた地蔵がしゃべった。
「ごめんなさい…、ママ。」
「アタシ、あんたのママじゃないし。」
そのあだ名で呼ばれるのは好きじゃない。
「このくらいできないなら、
さっさと辞めた方がいいよ。」
突き放した方が、お互いのためだと思う。
「アタシ、バイトあるから。
いつまでに集められるの?」
「日曜…。」
「は?」
「日曜、デート、だよね。」
「盗み聞きしてたの?」
「だって、教室…だったから。」
「あんたに関係ないでよね?
進路調査、さっさと集めてよね。
じゃあ、サヨナラ。」
廊下を足早に歩き、バイト先まで
自転車を盛り漕ぎする。
つきまとわれた挙げ句に、
任せた仕事ひとつもこなしていない。
そのくせに馴れ馴れしく、
アタシをイヤなあだ名で呼ぶ。
あの子もウワサ話を知っているに違いない。
アタシは確実に重松にイラだっていた。