つぎの日
「お昼のお弁当はここ。外には出ない。ゲームばっかりしない。お勉強もすること。危ないものは触らない」
「あぶないものって?」
「ナイフとか……なんだろ、キッチンでお湯を沸かすとか」
「わかったー」
「電話に出てね」
「ぜんぶの人に?」
「もちろん全員。あっ!みーやんも今休みだった。パート先がホテルだから自宅待機が多いって言ってたんだ。旦那さんもリモートワークって言ってたから、電話お願いできたのに失敗!」
「そんなにいらないよ」
あーめんどくさいー。
今日はりょうほうのおばあちゃんと、まゆおばさんとゆうやおじさんとえりおばさんと、お母さんのおともだちのえっちゃんとみゆちゃんとゆかちゃんと、とも君ママとこうだいママと……なんだかよくわかんないけど、時間をきめて30分に1回でんわがくるんだってーめちゃめんどくさいよー。
ママはしつこいくらいにいっぱいぼくに話をして、パパにひっぱられて家を出て行った。パパは「電話するから頑張れ」って、それだけだった。
ぼくはパパとママが出て行ってから、ドアをロックしてかいだんを走った。
そしてベランダに出てパパとママに手を振ろうとおもったけど、あ、マスクしなきゃダメだよね。
マスク……これがいい。
ぼくはベランダにあったパパのバイクのヘルメットをかぶって大きく手をふった。
「何それー!」
ママはそういってわらってる。
「ママとおんなじー」ってぼくが大きなこえでそう言うと、うれしそうにまたわらう。
「いや違うじゃん」
「おんなじなの!」
「子供めっ!」
「こどもだもん!」
パパもわらって「行ってくるよ。健人は地球を救えよ」って手をふる。ママもブンブンと大きく手をふった。
「ママ―がんばってねー!」
今まででいっちばん大きなこえでそういうと、ママは「朝から泣かすな!」って手をふってパパの車にのって、なんどもなんどもぼくをふりかえって、手をずーっと見えなくなるまでふってくれた。
行っちゃった。
ひとりでおるすばん。
夜の6時までのおるすばん。
ほんとうはちょっとだけさみしいけど、がんばってみる。
先生が言ってた『無理して頑張らなくていい。無理はダメ。心と身体が一番大切だから、無理は絶対ダメ。でも、頑張るのも大切』って。
ダメとたいせつの間にあるものは、ちょっとずつわかるようになるみたい。
ヘルメットをとってベランダにおくと、でんわのベルがきこえてきた。
えーっ!もうでんわくるの?
今日はでんわとの戦いだ!
がんばるぞ!