怖い怖い怖い。
拓ちゃんのお母さん怖い。
怒りオーラがMAXで背中に竜巻背負ってる。
その迫力はマレフィセントのようだ。地面が割れたらどうしよう。

「優奈さんも優奈さんだけど、おたくのお母様はどうなってるの?初対面の顔合わせなのに、こんな失礼なことってある?人をバカにして!」
料亭中に広がるその声。こんな上品な場所でこんな声を出すなんて、きっともう出入り禁止かもしれない。お料理を味わえなくて本当に残念だ。

「何よあの女!力士感って何よ!」
『お相撲さんってことですよ』と、拓ちゃんの兄嫁に素直に説明したいけど、もっと怒られるから我慢しよう。

「中止中止!この結婚は中止!優奈さんは嫁として認めません!」
「私も認めません!義理でも姉妹なんかになりたくない!」

気持ちもひとつに私を認めず排除しようとしている。
言葉もなくその場に私が立ちすくんでいると、私の家族を見送ってきた拓ちゃんとお父さんとお兄さんがやってきた。

「いやーお疲れさま。今日はありがとう。美味しかったねー」
このマイペースは誰に似たんだろう。
私に寄り添おうとする拓ちゃんの手を引っ張って、拓ちゃんのお母さんは目に涙を浮かべて訴えた。

「拓哉!お母さんはこの結婚に反対です。最初から反対だったけど、今日で気持ちは固まったわ。あのご両親と付き合うなんてゾッとする。絶対反対です」

「お母さん」

「拓哉はずーっと暮らした家が大好きでしょう。お母さんよくわかってる。だから、地元でお嫁さんを見つけましょう。お母さんとお姉さんが選んであげる。拓哉に似合う優しくて可愛くて年下で素直な女の子を探して……」

「お母さん。何度も言ってるけどこれは顔合わせの報告会で、結婚はもう決まってる話だから」

「拓哉」

「今日は遠いところありがとう。気を付けて帰ってね。顔合わせができてよかった。本当にありがとう」

拓ちゃんは言うだけ言って、自分の家族を店から押し出し、お店の人が玄関前に用意してくれていたお兄さんの車にお母さんと兄嫁を押し込んだ。

「父さんも兄さんもまたね」
拓ちゃんが言うとお父さんとお兄さんは「楽しかったよ」「優奈さんもありがとう」って答えて車に乗り込んだ。

拓ちゃんは笑顔で手を降る。

その笑顔は最強で
一番怖いのは拓ちゃんかもしれない……と、ふと思った私だった。