食後のコーヒーを飲み終わり、拓ちゃんが「そろそろ帰るね」と言ってくれたので、少しだけ元気が出た気がする。

お母さんはすがるように「まだ早い」だの「在宅仕事でしょう。泊ってらっしゃい」だの言うけれど、拓ちゃんは「僕も明日は出社なんだ。僕より優奈さんに負担がかかるから」と、そっと私の背中に手を置いて言ってくれた。優しさの見える言葉なんだけど、お母さんは当然気に入らない。

「じゃぁ優奈さんはバスと電車を乗り継いで帰って、拓哉だけ泊まったら?」
そんな恐ろしいセリフを名案っぽく普通に言ってきた。兄嫁は笑顔で同意し、お父さんとお兄さんは引きつった顔をする。

お母さんの本音が見えた気がする。

これはもうダメだ。そんなに私が気に入らないのだろうか。
『はい。そうします。もう二度と来ません』ぐらい言ってやろうかと思っていたら、先に拓ちゃんが声を出す。

「お母さん。お父さん。兄さんも義姉さんにも言うけど、僕は優奈さんと出会えてすごく幸せで、彼女をとても愛してる。大切な存在で心から守りたいと思ってる。僕は年下で頼りない存在だと自覚してるけど、優奈さんを想う気持ちは誰にも負けない。彼女に結婚を申し込んでOKもらった時は奇跡だった。だから僕以上に優奈さんを大切にしてほしい。これは許可をもらいに来たんじゃなくて結婚の報告だから。認める認めないの問題じゃないんだ」

拓ちゃん……。

「今度優奈さんのご両親との食事会があるから連絡する。来たくなかったら来なくてもいいよ。挙式はしない。写真は僕が優奈さんに頼み込んでやっと撮る話はつけている。僕たちで全てやるから心配しないで。今日は大切な家族に優奈さんを紹介できてよかった。じゃ、また来るね」

拓ちゃんはサラッと言って席を立ち、私の顔を見て席を立つようにうながした。