受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第51話 予期せぬ情報 》

 それから2週間が過ぎた。

 その日の朝。


「お待たせしました!」

「待ってたのだ!」


 我が家にカジミナちゃんが来た。

 その手には、布に包まれたなにかが――


「そ、それ、ドラミソードなのだ!?」

「はい! やっと完成しました。気に入ってもらえると嬉しいんですけど……」

「み、見てもいいのだ!?」

「もちろんです! どうぞ……!」


 ドラミの高揚感とカジミナちゃんの緊張感がひしひしと伝わってきて、なんだか僕までどきどきしてきた。

 わくわくと布を外したドラミは――カッと目を見開き、わなわなと震えた。


「こ、これは……」

「ど、どうですかね? ご要望通りにできたとは思いますけど……」

「すごすぎるのだ!」

「そ、それって、いい意味でですか? それとも――」

「いい意味に決まってるのだ!」

「ほ、ほんとですか!?」

「うむ! 翼もバサッって感じがするし、顔もガルルルルルって感じがするし、瞳もギラって感じがするのだ!」

「よ、よかったです……」


 カジミナちゃんは安心したのか、へなへなと座りこんでしまう。

 と、ドラミが満面の笑みで剣を見せてきた。


「ほらっ、見るのだジェイド! ドラミソードなのだ……!」

「ほんとにかっこいいね!」


 お世辞じゃない。

 ツバは大きく広げられた翼に見えるし、中心部分の顔は迫力満点で、いまにも噛みついてきそうだ。

 その瞳にはめこまれた小さな赤い石は、ドラゴンの血走った眼を彷彿とさせる。

 あとは肝心の刀身だけど……


「ねえ、抜いてみてよ」

「う、うむ。いま抜いてみせるのだ……」


 すらり、と剣を抜き、ドラミは息を呑む。


「ぎ、ぎらぎらしてるのだ……」

「切れ味も鋭そうだね」

「これならスライムをぼこぼこにできるのだ……! こんなに素敵なドラミソードを作ってくれて、どうもありがとうなのだ!」

「い、いえ! こちらこそ半人前のあたしに任せてくれてありがとうございます!」

「カジミナはもう半人前じゃないのだ! だってこんなに素敵な武器を作ってくれたのだ!」

「ドラミさん……」


 カジミナちゃんは涙ぐむ。

 遠くからこっそり見守っていた親方も、成長した娘の姿に涙を流しているみたい。


「よーし! これで大活躍してみせるのだ!」

「応援してます! もし切れ味が落ちたら遠慮なく来てくださいね! あたしが研ぎますから!」

「そのときはお願いするのだ!」


 がっしりと握手を交わす。

 それから報酬を支払い、笑顔でお別れすると、ドラミは声を弾ませた。


「さっそくクエストに挑むのだ!」

「その前に薬屋に行こっか? ドラミ用の傷薬とか毒消しを用意しておきたいし」

「おお……いよいよ本格的に冒険者デビューって感じがするのだ……!」


 異論はないようで、僕たちはスゥリンさんが営む薬屋へ向かった。

 そして薬屋が見えてくると、いてもたってもいられなくなったのか、ドラミは駆け出す。

 前回は入店した瞬間に悲鳴を上げたけど、さすがに今回は――


「ぎゃあああああああああああああ!? ぎゃああああああああああああああ!?」


 ……今回もか。

 前回はなかったグロテスクな素材を見ちゃったのかな?

 薬屋に入ると、ドラミはしりもちをついていた。

 そしてドラミの目の前には、ナタを手にした血まみれのお婆ちゃんが――


「あれ? クーさんじゃないですか」

「ひさしぶりだねぇ、ジェイドちゃん。この娘、あんたの連れかい?」

「し、知り合いなのだ……?」

「スゥリンさんのお婆ちゃんだよ」

「な、なんだ。びっくりしたのだ……」


 無事に誤解は解けたけど、まだ怖いのか僕の手をぎゅっと握るドラミ。


「それで、どうしてクーさんが? 隠居したって聞いてたんですけど」

「可愛い孫娘の顔を見たくなってね。来たついでに腕がなまってないか確かめたら、そりゃもうひどい有様でね。いまは奥で修行の真っ最中だよ」


 なるほど。クーさんの修行は厳しかったって聞くからなぁ。

 どうりでさっきから「ひぃ~……ひぃ~……」って泣きそうな声がするわけだ。


「で、ジェイドちゃんはなにをしに来たんだい? いまさらあんたに薬は必要ないんじゃないのかい?」

「僕じゃなくて、この娘の薬をと思いまして」

「冒険者デビューするから、傷薬が欲しいのだ!」

「はいよ。ちょっと待ってな」


 クーさんが棚から薬を取り、ドラミに渡す。


「お薬ありがとうなのだ!」

「どういたしまして。ただ、うちの薬は効くけどね、だからってあんまり無茶するんじゃないよ」

「心配してくれてありがとうなのだ!」


 お礼を言って、薬をポーチに入れる。

 クーさんにお金を支払っていると、そうそう、とたずねてきた。


「ジェイドちゃん、おすすめの旅先を教えてくれるかい?」

「旅先ですか?」

「じっとしてるのはどうも性に合わないんでね。いろんなところを旅してまわってるところなのさ」

「なるほど。そういうことでしたら、ラブーンがおすすめです!」

「ラブーン?」

「カミエーシの出身地なのだっ! 屋敷に描かれたカミエーシの絵は一見の価値ありなのだ……」

「へえ。カミエーシの出身地かい。だったら行ってみようかね」


 教えてくれてありがとね、と言うクーさんに、いえいえ、と返事をして、


「ちなみにですけど、クーさんって他国を旅したことありますか?」

「国を出たことは数えるほどしかないねぇ。どうしてだい?」

「僕たち、オニキスさんっていう冒険者を捜してまして……」

「ああ、オニキスかい。もう長いこと見てないね」

「知ってるんですか!?」

「見る目がある冒険者は、みんなうちの薬屋に来るからね。あの子もなかなか優秀な冒険者だったよ。最後に薬を買いに来たのは……もう12年くらい前になるかね」

「12年くらい前に来たんですか!?」

「珍しい依頼だったから、あの日のことはよく覚えているよ。蒸し暑いのに、大量の凍傷薬と溶岩薬を買いに来たからね。アイスタートルでも飼ってるのかいって冗談でたずねたら、あの子なんて言ったと思う?」

「なんて言ったんですか!?」


 僕は前のめりになってたずねた。

 軽い気持ちでたずねたのに、まさかこんなに情報が手に入るとは……!


「アイス王国に行くとか言うんだよ」

「アイス王国に!?」

「あんなところに行くひとの気がしれないよ。あの子、なに考えてんだろうね?」

「わかりませんけど僕もアイス王国に行きます!」

「ドラミもついていくのだ!」


 意気込む僕たちにほうけつつ、クーさんは「だったらこれが必要だろう?」と凍傷薬をおすすめしてくるのだった。