《 第5話 旅の仲間 》
「首が吹っ飛ぶかと思ったのだ……」
「ごめんごめん」
いつもの調子で走ったら、彼女は大きな悲鳴を上げた。
できれば急いで帰りたい。だけどいつものペースで走ると彼女は泣いてしまうかも。
そんなわけで地方都市に寄り、そこで一泊。ついでに彼女の服を見繕い、夜が明けてすぐに列車に乗った。
魔石を動力源とする列車は、僕が知る限り一番速い乗り物だ。もちろん走ったほうが速いけど、昼過ぎには王都に帰りつくことができた。
「おかえりなさいジェイドさん!」
「任務ご苦労様です! ……おや、その娘さんは?」
「僕の親戚です。王都に興味があるそうなので連れてきました」
こんなところでドラゴンだと明かせばパニックだ。
たとえホワイトドラゴンでも、みんなは怖がるに違いない。
「おおっ! ジェイドさんの親戚でしたか!」
「どうりで凜々しいお姿をしているわけだ!」
「将来が楽しみですな!」
「王都……なかなかいいところなのだ……」
到着早々褒められ、ご機嫌そうにニヤニヤしている。
「こっちだよ」
彼女の手を引き、列車乗り場をあとにする。そして大通りを歩くことしばし。
僕たちは王城にたどりつく。
前もって知らせてるわけじゃないが、王様にはいつでも来ていいって言われてる。
衛兵に王様との謁見を求め、ひとまず城内に案内してもらった。
謁見の間で待つように告げられ、僕たちは椅子に腰かける。
「……」
彼女はずいぶんおとなしくしていた。城に入ってから言葉を発していない。
無理ないか。これから自分の運命が決まるんだから。
彼女が平和に過ごせるように、しっかり安全性をアピールしないとね。
「待たせたな」
王様が来た。
朗らかな顔つきの王様に、僕は深々と頭を下げる。
「お忙しいなか時間を割いていただいて申し訳ありません。実はひとつご相談したいことがございまして……」
「堅苦しいことを言うでない。わしとジェイドの仲ではないか。それに用件は聞かずともわかっておる」
「本当ですか?」
「うむ。ついにわしの後継者として国民を導く決心がついたのだろう?」
うわぁ。どうしよ。全然違う……。
「いえ、そういうわけでは……」
「むぅ、残念じゃのぅ。強く優しく無欲なジェイドなら民を正しい方向へと導けると確信しておるのじゃが……」
「僕は冒険者が性に合ってますから……」
「そうか。気が変わったらいつでも申し出るがいい。して、跡継ぎの話ではないとなると何用で参ったのじゃ?」
「実を言うと、人化魔法を扱うホワイトドラゴンを拾ったので、城で保護してもらおうとここへ連れてきたんです。彼女がそうです」
「ど、どうも。私は人畜無害なホワイトドラゴンなのだ……着替えも食事もひとりでできるので、ちっとも手がかからないお利口さんなのだ……」
小さな身体をびくびくさせつつ、へこへこと頭を下げ、自己アピールする。
魔獣を城に連れ帰るなんて正気の沙汰じゃないけど、ホワイトドラゴンなら話は別。しかも、ものすごく腰が低いときた。
王様は多少驚きこそすれ、衛兵を呼ぼうとはしなかった。
「よかろう。我が国はジェイドにも、ホワイトドラゴンにも多大な恩があるのでな。ジェイドの紹介ということであれば危険もなかろう」
ただし、と王様は目を光らせる。
「ひとつだけ条件がある。ドラゴンの世話は、ジェイドがつきっきりでするのじゃ」
「つきっきりですか……」
僕が世話を任されるのは、予想してなかったわけじゃない。
王城にドラゴンを解き放つのは、王様としては避けたいところだろう。最近念願の子宝に恵まれたとなればなおさらだ。
まだ生まれて間もない王女様になにかあったらマズいので、王様としては城の外で過ごしてほしいに決まっている。かといって街中にドラゴンを解き放つわけにもいかない。
だからこそ、僕の管理下に置くというわけだ。
けどなぁ……。
家に住まわせるだけならいいけど、つきっきりってのはちょっと……。
今日みたいに移動に時間がかかるし、ギルドに通うペースも落ちちゃいそうだ。
でも――
「お願いなのだ、ジェイド……首を縦に振ってほしいのだ……」
泣きそうな幼女の頼みを断るなんて、僕にはできない。ここで見捨てたら、罪悪感で寝つきが悪くなりそうだ。
それに……きっとガーネットさんも、子どもを見捨てる男より、見捨てない男のほうが好きだよね。
「わかりました。僕が責任を持って面倒見ます!」
「ならばよし!」
話がまとまり、僕たちは謁見の間を出た。
そのまま王城をあとにする。
「助けてくれてありがとうなのだ! この恩は一生をかけて返すのだ!」
「いいよべつに、恩返しなんて。それより……そういえばきみのこと、なんて呼べばいいのかな?」
「ジェイドが好きに決めてくれていいのだ!」
「だったら、ドラミでいいかな」
「なんだかてきとーに名付けられた気がしてならないのだ……でもいいのだ!」
衣食住を手に入れて嬉しいようだ。
ご機嫌そうなドラミを連れて、ギルドへ向かう。
ギルドの外にドラミを待たせて、いつものように18番窓口へ。
1分に満たない幸せなひとときを堪能するとクエストを受け、ドラミとともに次の現場へ向かうのだった。
「首が吹っ飛ぶかと思ったのだ……」
「ごめんごめん」
いつもの調子で走ったら、彼女は大きな悲鳴を上げた。
できれば急いで帰りたい。だけどいつものペースで走ると彼女は泣いてしまうかも。
そんなわけで地方都市に寄り、そこで一泊。ついでに彼女の服を見繕い、夜が明けてすぐに列車に乗った。
魔石を動力源とする列車は、僕が知る限り一番速い乗り物だ。もちろん走ったほうが速いけど、昼過ぎには王都に帰りつくことができた。
「おかえりなさいジェイドさん!」
「任務ご苦労様です! ……おや、その娘さんは?」
「僕の親戚です。王都に興味があるそうなので連れてきました」
こんなところでドラゴンだと明かせばパニックだ。
たとえホワイトドラゴンでも、みんなは怖がるに違いない。
「おおっ! ジェイドさんの親戚でしたか!」
「どうりで凜々しいお姿をしているわけだ!」
「将来が楽しみですな!」
「王都……なかなかいいところなのだ……」
到着早々褒められ、ご機嫌そうにニヤニヤしている。
「こっちだよ」
彼女の手を引き、列車乗り場をあとにする。そして大通りを歩くことしばし。
僕たちは王城にたどりつく。
前もって知らせてるわけじゃないが、王様にはいつでも来ていいって言われてる。
衛兵に王様との謁見を求め、ひとまず城内に案内してもらった。
謁見の間で待つように告げられ、僕たちは椅子に腰かける。
「……」
彼女はずいぶんおとなしくしていた。城に入ってから言葉を発していない。
無理ないか。これから自分の運命が決まるんだから。
彼女が平和に過ごせるように、しっかり安全性をアピールしないとね。
「待たせたな」
王様が来た。
朗らかな顔つきの王様に、僕は深々と頭を下げる。
「お忙しいなか時間を割いていただいて申し訳ありません。実はひとつご相談したいことがございまして……」
「堅苦しいことを言うでない。わしとジェイドの仲ではないか。それに用件は聞かずともわかっておる」
「本当ですか?」
「うむ。ついにわしの後継者として国民を導く決心がついたのだろう?」
うわぁ。どうしよ。全然違う……。
「いえ、そういうわけでは……」
「むぅ、残念じゃのぅ。強く優しく無欲なジェイドなら民を正しい方向へと導けると確信しておるのじゃが……」
「僕は冒険者が性に合ってますから……」
「そうか。気が変わったらいつでも申し出るがいい。して、跡継ぎの話ではないとなると何用で参ったのじゃ?」
「実を言うと、人化魔法を扱うホワイトドラゴンを拾ったので、城で保護してもらおうとここへ連れてきたんです。彼女がそうです」
「ど、どうも。私は人畜無害なホワイトドラゴンなのだ……着替えも食事もひとりでできるので、ちっとも手がかからないお利口さんなのだ……」
小さな身体をびくびくさせつつ、へこへこと頭を下げ、自己アピールする。
魔獣を城に連れ帰るなんて正気の沙汰じゃないけど、ホワイトドラゴンなら話は別。しかも、ものすごく腰が低いときた。
王様は多少驚きこそすれ、衛兵を呼ぼうとはしなかった。
「よかろう。我が国はジェイドにも、ホワイトドラゴンにも多大な恩があるのでな。ジェイドの紹介ということであれば危険もなかろう」
ただし、と王様は目を光らせる。
「ひとつだけ条件がある。ドラゴンの世話は、ジェイドがつきっきりでするのじゃ」
「つきっきりですか……」
僕が世話を任されるのは、予想してなかったわけじゃない。
王城にドラゴンを解き放つのは、王様としては避けたいところだろう。最近念願の子宝に恵まれたとなればなおさらだ。
まだ生まれて間もない王女様になにかあったらマズいので、王様としては城の外で過ごしてほしいに決まっている。かといって街中にドラゴンを解き放つわけにもいかない。
だからこそ、僕の管理下に置くというわけだ。
けどなぁ……。
家に住まわせるだけならいいけど、つきっきりってのはちょっと……。
今日みたいに移動に時間がかかるし、ギルドに通うペースも落ちちゃいそうだ。
でも――
「お願いなのだ、ジェイド……首を縦に振ってほしいのだ……」
泣きそうな幼女の頼みを断るなんて、僕にはできない。ここで見捨てたら、罪悪感で寝つきが悪くなりそうだ。
それに……きっとガーネットさんも、子どもを見捨てる男より、見捨てない男のほうが好きだよね。
「わかりました。僕が責任を持って面倒見ます!」
「ならばよし!」
話がまとまり、僕たちは謁見の間を出た。
そのまま王城をあとにする。
「助けてくれてありがとうなのだ! この恩は一生をかけて返すのだ!」
「いいよべつに、恩返しなんて。それより……そういえばきみのこと、なんて呼べばいいのかな?」
「ジェイドが好きに決めてくれていいのだ!」
「だったら、ドラミでいいかな」
「なんだかてきとーに名付けられた気がしてならないのだ……でもいいのだ!」
衣食住を手に入れて嬉しいようだ。
ご機嫌そうなドラミを連れて、ギルドへ向かう。
ギルドの外にドラミを待たせて、いつものように18番窓口へ。
1分に満たない幸せなひとときを堪能するとクエストを受け、ドラミとともに次の現場へ向かうのだった。