《 第49話 新たなる冒険者 》
その日の昼過ぎ。
「うおおおお! やったのだああああああああ!」
家に帰りつくなり、ドラミは大声で叫んだ。
国王様の許可が下りたのだ!
いや~、ほんと冒険者デビューが決まってよかったよ。肩の荷が下りた気分だ。
なにせ王城へ行く前から、ドラミは大はしゃぎだったから。
うきうきしているドラミの手前、失敗は許されない。僕の責任は重大で、ドラミがいかに良い娘にしていたか、いかに冒険者に憧れているかを熱く語った。
結果、国王様から『良い娘にしてるみたいだし冒険者になっていいよ(要約)』と許可をいただいたのだ。
それからいまに至るまで、ドラミはずっとうずうずしていた。早く喜びたいけど、王城ではしゃぐと国王様に怒られちゃうし、街中で叫ぶと迷惑になってしまうから。
そんなわけで帰宅したとたん、どたばたと部屋中を駆けまわり、ジャンプしたり、ごろごろ転がったりしているわけだ。
「さて、あとは準備をするだけだね」
「武器屋に行くのだ!?」
「その前に――」
「防具屋に行くのだ!?」
「その前に――」
「花紋を手に入れるのだ!?」
「惜しいけど、ちょっと違うかな」
「じゃ、じゃあ、なにをするのだ?」
「ギルドで冒険者になる手続きをするんだよ」
「面接とかあるのだ……?」
「面接はないよ。必要事項を記入するだけだよ。名前と、年齢と、出身地をね」
必要事項を説明すると、ドラミは困り顔になる。
気持ちはわかるよ。なにせ――
「ドラミ、年齢も出身地もわからないのだ……」
「あと名前もね」
「名前はドラミなのだ! ジェイドがくれた、カッコイイ名前なのだ!」
「『ドラミ』でも問題ないと思うけど、念のため苗字も用意しといたほうがいいよ。こういうのがいいとかある?」
ドラミは腕を組み、しばらく黙りこむ。
そして名案が閃いたようにハッとして、
「ジェイドと同じ苗字がいいのだ!」
「僕と?」
「そっちのほうが英雄になれそうなのだ! ……だめなのだ?」
「ううん。いいよ。フィンクスは珍しい苗字じゃないし、みんなには僕の親戚だって紹介してるからね」
苗字が決まって嬉しいのか、ドラミは「ドラミ・フィンクス……」とつぶやいて、ニヤニヤする。
さて。
「誕生日なんだけど、今日12歳になったってことにしていいかな?」
「それでいいのだ! だってマリンも12歳になった日にクエストを受けてたのだ! マリンとお揃いなのだ!」
「ちなみに僕もだよ」
「やったー! ジェイドともお揃いなのだ~!」
「あと誕生日おめでとう!」
「ありがとなのだ~!」
「で、あとは出身地だけど……昔の思い出って残ってる?」
「あんまり覚えてないのだ。ただ、ものすごく寒かったことだけは覚えてるのだ」
「その頃からひとり旅をしてたの?」
「ふたり暮らしだったのだ」
「ふたり?」
「うむ。ドラミはそのひとから言葉を教わったのだ。親身になってドラミのお世話をしてくれたのだ。あと、ドラゴンになったり、人間になったりしてたのだ。……いま思うと、あれはお母さんだったのかもしれないのだ」
「ぜったいお母さんだよ。お母さんの特徴が盛り沢山だもん」
「でもお母さんじゃないって言われたのだ」
「そうなの?」
「うむ。突然『これからはひとりで生きていきなさい』って言われて、暖かい場所に送られて、最後に『ドラゴンの姿になっちゃだめよ』って念押しされたのだ」
それからひとり旅を始め、ほどなくしてお婆ちゃんの家の屋根裏に行きついたのだとか。
「けっきょくドラミの出身地はどうすればいいのだ?」
「寒いところだけだと情報に乏しいし……いっそ僕と同じ出身地にする?」
「それがいいのだ!」
カサド村出身のドラミ・フィンクス(12歳)ということになり、いよいよ冒険者デビューが近づいてきた。
あとするべきことは――
「文字を書く練習をしないとね」
「練習するのだ!」
ドラミはテーブルにクレヨンと画用紙を広げる。
僕がお手本を書いてみせると、一生懸命にマネをして――
◆
夕方。
準備万端のドラミとともに、僕はギルドにやってきた。
すると子どもたちが集まってくる。
「ドラミちゃんだ!」
「今日はどんな冒険譚を聞かせてくれるの!?」
わくわくと目を輝かせる子どもたちに、ドラミは凜々しい顔で言う。
「冒険譚はまた今度なのだ。なぜならドラミ、今日はべつの用事で来たのだ」
「べつの用事?」
「冒険者デビューなのだ!」
子どもたちがざわつく。
「すごい! ドラミちゃん冒険者になるんだ!」
「満を持してって感じだね!」
「きっとすごい冒険者になるんだろうな~」
「冒険者デビューしたドラミの冒険譚、楽しみにしてるといいのだ!」
子どもたちに声援を送られ、僕たちはギルド内へ。
そのとたん、ドラミは顔を強ばらせた。
その瞬間が迫り、急に緊張しちゃったみたい。
「だいじょうぶだよ。ちゃんとデビューできるって」
「で、でも、字を間違えちゃうかもなのだ……」
「あんなに練習したんだから、ちゃんと書けるって。もし間違えても、書きなおせばいいだけなんだから」
「な、なるべく間違えたくないのだ。だって、かっこよくデビューしたいのだ……」
「今日のところは家で練習する?」
「子どもたちにあんなこと言っちゃったから、あとには引けないのだ……」
たしかに『字の練習をするから今日は帰るのだ』じゃ格好がつかないけど……。
覚悟が固まらず、けっきょくこの場で練習をすることに。
何度も何度も小さなてのひらに指で字を書き、ついにその瞬間が訪れた。
「じゃ、じゃあ行ってくるのだ」
「うん。頑張って!」
「……べつに近くまでついてきてもいいのだ」
「じゃあそうしようかな」
僕がついてくるとわかり、ドラミは安心したみたい。
きりっとした顔で、正面カウンターへと向かう。
すると受付嬢がにこりとほほ笑み、
「こんにちは。どうしたのかな?」
「冒険者になりに来たのだ!」
「冒険者になるには登録手数料10000ゴルが必要なんだけど、持ってるかな?」
「ちゃ、ちゃんと持ってるのだ!」
事前に渡しておいた10000ゴルを受付嬢に渡す。
受付嬢はお金を確かめると、紙を差し出してきた。
「それじゃあ、ここに必要事項を書いてくれるかな?」
「書きますのだ!」
ドラミは緊張感たっぷりの顔でうなずき、ぷるぷると震える手で記入する。
名前:ドラミ・フィンクス
年齢:12歳
出身:カサド村
花紋:
花紋の欄で手が止まり、わくわくとした眼差しで受付嬢を見る。
受付嬢が水晶玉を取り出した。
「これに利き手で触れてくれるかな?」
「はいなのだ!」
ぺたっと水晶に触れるドラミ。
すると右手の甲に、紋様が浮き出てきた。
花のつぼみに似た紋様――花紋だ。
「こ、この花紋は……! なんなのだ? ジェイドの花紋とは違うのだ……」
「きみは強化系がよかったのかな?」
「ドラミ的には強化系か攻撃系がよかったのだ」
「だったらおめでとう! きみは攻撃系だよっ!」
攻撃系は、ど派手な魔法を使う冒険者の花形だ。
事前にその話を聞いていたからか、ドラミはその場で跳びはねた。
「やったのだ! 攻撃系になったのだ~!」
「おめでとうドラミ!」
「ありがとなのだ~!」
「おめでとうお嬢ちゃん!」
「ありがとなのだ~!」
冒険者たちから拍手を送られ、ドラミはとっても嬉しそう。
さて。あとはクエストを受けるだけだけど……もう夕方だ。
初クエストは明日以降にするとして、今日のところは帰ることに。
ギルドを出ると、子どもたちが駆け寄ってきた。
ドラミは得意気に花紋を見せてあげる。
「じゃじゃーん! ドラミ、攻撃系になったのだ~!」
「かっこいい~!」
「ドラミちゃんに似合ってるね!」
「そ、それほどでもないのだ……」
子どもたちに花紋を褒められて、ドラミはうきうきとした足取りで家路についたのだった。
◆
家に帰って喉を潤すと、ドラミに手を引かれて外へ出る。
「さっそく魔法を使いたいのだ!」
「いいよ。じゃあ裏手に行こうか」
つぼみクラスとはいえ、ひとに当たると危ないからね。
いずれ花壇になる家の裏手へまわり、ひとがいないことを確かめると――
ドラミは、右手を突き出した。
「うおおおおおお! 魔法うううううう! ……どうやって使うのだ?」
「イメージすればいいんだよ。花紋が強化されればされるほど、イメージ通りに発動するんだ」
「なるほど、イメージ……」
「あと、ドラミの場合は水と風が得意みたいだね」
「どうしてわかるのだ?」
「色だよ。攻撃系には『火』『光』『水』『風』の四系統があって、花紋の色で得意系統がわかるんだ」
火が赤、光が黄、水が青、風が緑だ。
ドラミの花紋は青と緑が混ざりあってるので水と風が得意系統ということになる。
「上手くすれば冷風と冷水を融合させて、氷魔法も使えるようになるよ」
「す、すごいのだ……!」
「もちろん、複雑なイメージを具現化するには花紋を強化しないといけないけどね」
「いつか使いこなしてみせるのだ……!」
力強く意気込み、ドラミは右手をかざす。
するとてのひらの先に花紋と同じ魔法陣が浮かび――
「――! で、出たのだ!」
ちょろちょろと水が出た。
「おめでとう! 初魔法、大成功だね!」
「ありがとなのだ! お次は――こうなのだ!」
ふわっ、と涼やかな風が吹いた。
「おめでとう! 2連続で大成功だね!」
「ありがとなのだ! よーし、これで……」
ドラミは、ハッとする。
そして不安げにたずねてきた。
「……これでスライム、倒せるのだ?」
「うーん。つぼみクラスの魔法だけだと、ちょっと難しいかもね」
「やっぱり……。ドラミもこれで倒せるイメージは湧かないのだ……」
ちょっぴり落ちこんだ様子だけど、すぐに気を取りなおす。
「でも冒険者デビューできて嬉しいのだ! お礼にお手伝いするのだ!」
「いいよお礼なんて」
「遠慮しなくていいのだ! さあさあ、まずは家に入るのだ!」
ぐいぐいと背中を押され、家に入る。
そのまま背中を押され続け、風呂場に行きついた。
「お風呂に入りたいの?」
「入りたいのだ! ジェイドの背中を流すのだ!」
「のんびりしてくれていいんだけど」
「これがドラミ流のんびり術なのだ!」
初耳だけど、ドラミがそうしたいならお願いしようかな。
脱衣所で服を脱いで、ドラミと一緒にお風呂場へ。
するとドラミが、さっそく僕の背中をごしごしする。
「痒いところはないのだ~?」
「痒いところはないかな」
「痛いところはないのだ~?」
「痛いところもないかな」
「そろそろ泡を流すのだ~。えい!」
ちょろちょろと水をかけられる。
魔法を使いたくてお風呂に誘ったのかな?
「あれ? 水が止まっちゃったのだ」
「さっき魔法を使ったばかりだもん。休憩しないと魔法は使えないよ」
「だったらしばらく湯舟に浸かるのだ! そして次は魔法でジェイドの髪を渇かしてあげるのだ!」
途中で魔力が切れて半乾きに終わりそうだ。
だけど気持ちは嬉しいので、素直にお礼を言っておく。
湯舟に浸かり、ふぃ~と吐息を漏らすドラミ。
「疲れがお湯に溶けていくのだ……」
「だね……」
「……ところで、ドラミにお願いしたいこととかないのだ?」
「ないけど……さっきからやけにお手伝いしたがるね」
ぎくっ、という音が聞こえた気がした。
ドラミは目を泳がせながら、
「べ、べつに普通なのだ! だってジェイドには普段お世話になってるのだ!」
「……もしかして、僕に頼みがあるんじゃない?」
「ど、どど、どうしてわかったのだ!?」
「わかるよ。顔にそう書いてあるし」
ばしゃばしゃと顔を洗うドラミ。
だからそういう意味じゃないんだけど……。
とにかく、ドラミの真意はわかった。
「で、僕に頼みたいことってなに?」
「……これからもお手伝い頑張るから、カッコイイ武器を買ってほしいのだ」
「うん。いいよ」
「ええ!? 10000ゴルも出してもらったのに、そのうえ武器まで買ってくれるのだ!?」
「もちろんだよ。冒険者に武器と防具は欠かせないからね」
「防具まで買ってくれるのだ!? ち、ちなみに予算はおいくらなのだ……?」
「予算は気にしなくていいよ。魔獣と戦うんだから、ちゃんと装備を整えないと」
「うおおおおお! やったのだあああああ! ありがとなのだあああああ!」
ざばっと立ち上がり、嬉しそうに小躍りするドラミだった。
その日の昼過ぎ。
「うおおおお! やったのだああああああああ!」
家に帰りつくなり、ドラミは大声で叫んだ。
国王様の許可が下りたのだ!
いや~、ほんと冒険者デビューが決まってよかったよ。肩の荷が下りた気分だ。
なにせ王城へ行く前から、ドラミは大はしゃぎだったから。
うきうきしているドラミの手前、失敗は許されない。僕の責任は重大で、ドラミがいかに良い娘にしていたか、いかに冒険者に憧れているかを熱く語った。
結果、国王様から『良い娘にしてるみたいだし冒険者になっていいよ(要約)』と許可をいただいたのだ。
それからいまに至るまで、ドラミはずっとうずうずしていた。早く喜びたいけど、王城ではしゃぐと国王様に怒られちゃうし、街中で叫ぶと迷惑になってしまうから。
そんなわけで帰宅したとたん、どたばたと部屋中を駆けまわり、ジャンプしたり、ごろごろ転がったりしているわけだ。
「さて、あとは準備をするだけだね」
「武器屋に行くのだ!?」
「その前に――」
「防具屋に行くのだ!?」
「その前に――」
「花紋を手に入れるのだ!?」
「惜しいけど、ちょっと違うかな」
「じゃ、じゃあ、なにをするのだ?」
「ギルドで冒険者になる手続きをするんだよ」
「面接とかあるのだ……?」
「面接はないよ。必要事項を記入するだけだよ。名前と、年齢と、出身地をね」
必要事項を説明すると、ドラミは困り顔になる。
気持ちはわかるよ。なにせ――
「ドラミ、年齢も出身地もわからないのだ……」
「あと名前もね」
「名前はドラミなのだ! ジェイドがくれた、カッコイイ名前なのだ!」
「『ドラミ』でも問題ないと思うけど、念のため苗字も用意しといたほうがいいよ。こういうのがいいとかある?」
ドラミは腕を組み、しばらく黙りこむ。
そして名案が閃いたようにハッとして、
「ジェイドと同じ苗字がいいのだ!」
「僕と?」
「そっちのほうが英雄になれそうなのだ! ……だめなのだ?」
「ううん。いいよ。フィンクスは珍しい苗字じゃないし、みんなには僕の親戚だって紹介してるからね」
苗字が決まって嬉しいのか、ドラミは「ドラミ・フィンクス……」とつぶやいて、ニヤニヤする。
さて。
「誕生日なんだけど、今日12歳になったってことにしていいかな?」
「それでいいのだ! だってマリンも12歳になった日にクエストを受けてたのだ! マリンとお揃いなのだ!」
「ちなみに僕もだよ」
「やったー! ジェイドともお揃いなのだ~!」
「あと誕生日おめでとう!」
「ありがとなのだ~!」
「で、あとは出身地だけど……昔の思い出って残ってる?」
「あんまり覚えてないのだ。ただ、ものすごく寒かったことだけは覚えてるのだ」
「その頃からひとり旅をしてたの?」
「ふたり暮らしだったのだ」
「ふたり?」
「うむ。ドラミはそのひとから言葉を教わったのだ。親身になってドラミのお世話をしてくれたのだ。あと、ドラゴンになったり、人間になったりしてたのだ。……いま思うと、あれはお母さんだったのかもしれないのだ」
「ぜったいお母さんだよ。お母さんの特徴が盛り沢山だもん」
「でもお母さんじゃないって言われたのだ」
「そうなの?」
「うむ。突然『これからはひとりで生きていきなさい』って言われて、暖かい場所に送られて、最後に『ドラゴンの姿になっちゃだめよ』って念押しされたのだ」
それからひとり旅を始め、ほどなくしてお婆ちゃんの家の屋根裏に行きついたのだとか。
「けっきょくドラミの出身地はどうすればいいのだ?」
「寒いところだけだと情報に乏しいし……いっそ僕と同じ出身地にする?」
「それがいいのだ!」
カサド村出身のドラミ・フィンクス(12歳)ということになり、いよいよ冒険者デビューが近づいてきた。
あとするべきことは――
「文字を書く練習をしないとね」
「練習するのだ!」
ドラミはテーブルにクレヨンと画用紙を広げる。
僕がお手本を書いてみせると、一生懸命にマネをして――
◆
夕方。
準備万端のドラミとともに、僕はギルドにやってきた。
すると子どもたちが集まってくる。
「ドラミちゃんだ!」
「今日はどんな冒険譚を聞かせてくれるの!?」
わくわくと目を輝かせる子どもたちに、ドラミは凜々しい顔で言う。
「冒険譚はまた今度なのだ。なぜならドラミ、今日はべつの用事で来たのだ」
「べつの用事?」
「冒険者デビューなのだ!」
子どもたちがざわつく。
「すごい! ドラミちゃん冒険者になるんだ!」
「満を持してって感じだね!」
「きっとすごい冒険者になるんだろうな~」
「冒険者デビューしたドラミの冒険譚、楽しみにしてるといいのだ!」
子どもたちに声援を送られ、僕たちはギルド内へ。
そのとたん、ドラミは顔を強ばらせた。
その瞬間が迫り、急に緊張しちゃったみたい。
「だいじょうぶだよ。ちゃんとデビューできるって」
「で、でも、字を間違えちゃうかもなのだ……」
「あんなに練習したんだから、ちゃんと書けるって。もし間違えても、書きなおせばいいだけなんだから」
「な、なるべく間違えたくないのだ。だって、かっこよくデビューしたいのだ……」
「今日のところは家で練習する?」
「子どもたちにあんなこと言っちゃったから、あとには引けないのだ……」
たしかに『字の練習をするから今日は帰るのだ』じゃ格好がつかないけど……。
覚悟が固まらず、けっきょくこの場で練習をすることに。
何度も何度も小さなてのひらに指で字を書き、ついにその瞬間が訪れた。
「じゃ、じゃあ行ってくるのだ」
「うん。頑張って!」
「……べつに近くまでついてきてもいいのだ」
「じゃあそうしようかな」
僕がついてくるとわかり、ドラミは安心したみたい。
きりっとした顔で、正面カウンターへと向かう。
すると受付嬢がにこりとほほ笑み、
「こんにちは。どうしたのかな?」
「冒険者になりに来たのだ!」
「冒険者になるには登録手数料10000ゴルが必要なんだけど、持ってるかな?」
「ちゃ、ちゃんと持ってるのだ!」
事前に渡しておいた10000ゴルを受付嬢に渡す。
受付嬢はお金を確かめると、紙を差し出してきた。
「それじゃあ、ここに必要事項を書いてくれるかな?」
「書きますのだ!」
ドラミは緊張感たっぷりの顔でうなずき、ぷるぷると震える手で記入する。
名前:ドラミ・フィンクス
年齢:12歳
出身:カサド村
花紋:
花紋の欄で手が止まり、わくわくとした眼差しで受付嬢を見る。
受付嬢が水晶玉を取り出した。
「これに利き手で触れてくれるかな?」
「はいなのだ!」
ぺたっと水晶に触れるドラミ。
すると右手の甲に、紋様が浮き出てきた。
花のつぼみに似た紋様――花紋だ。
「こ、この花紋は……! なんなのだ? ジェイドの花紋とは違うのだ……」
「きみは強化系がよかったのかな?」
「ドラミ的には強化系か攻撃系がよかったのだ」
「だったらおめでとう! きみは攻撃系だよっ!」
攻撃系は、ど派手な魔法を使う冒険者の花形だ。
事前にその話を聞いていたからか、ドラミはその場で跳びはねた。
「やったのだ! 攻撃系になったのだ~!」
「おめでとうドラミ!」
「ありがとなのだ~!」
「おめでとうお嬢ちゃん!」
「ありがとなのだ~!」
冒険者たちから拍手を送られ、ドラミはとっても嬉しそう。
さて。あとはクエストを受けるだけだけど……もう夕方だ。
初クエストは明日以降にするとして、今日のところは帰ることに。
ギルドを出ると、子どもたちが駆け寄ってきた。
ドラミは得意気に花紋を見せてあげる。
「じゃじゃーん! ドラミ、攻撃系になったのだ~!」
「かっこいい~!」
「ドラミちゃんに似合ってるね!」
「そ、それほどでもないのだ……」
子どもたちに花紋を褒められて、ドラミはうきうきとした足取りで家路についたのだった。
◆
家に帰って喉を潤すと、ドラミに手を引かれて外へ出る。
「さっそく魔法を使いたいのだ!」
「いいよ。じゃあ裏手に行こうか」
つぼみクラスとはいえ、ひとに当たると危ないからね。
いずれ花壇になる家の裏手へまわり、ひとがいないことを確かめると――
ドラミは、右手を突き出した。
「うおおおおおお! 魔法うううううう! ……どうやって使うのだ?」
「イメージすればいいんだよ。花紋が強化されればされるほど、イメージ通りに発動するんだ」
「なるほど、イメージ……」
「あと、ドラミの場合は水と風が得意みたいだね」
「どうしてわかるのだ?」
「色だよ。攻撃系には『火』『光』『水』『風』の四系統があって、花紋の色で得意系統がわかるんだ」
火が赤、光が黄、水が青、風が緑だ。
ドラミの花紋は青と緑が混ざりあってるので水と風が得意系統ということになる。
「上手くすれば冷風と冷水を融合させて、氷魔法も使えるようになるよ」
「す、すごいのだ……!」
「もちろん、複雑なイメージを具現化するには花紋を強化しないといけないけどね」
「いつか使いこなしてみせるのだ……!」
力強く意気込み、ドラミは右手をかざす。
するとてのひらの先に花紋と同じ魔法陣が浮かび――
「――! で、出たのだ!」
ちょろちょろと水が出た。
「おめでとう! 初魔法、大成功だね!」
「ありがとなのだ! お次は――こうなのだ!」
ふわっ、と涼やかな風が吹いた。
「おめでとう! 2連続で大成功だね!」
「ありがとなのだ! よーし、これで……」
ドラミは、ハッとする。
そして不安げにたずねてきた。
「……これでスライム、倒せるのだ?」
「うーん。つぼみクラスの魔法だけだと、ちょっと難しいかもね」
「やっぱり……。ドラミもこれで倒せるイメージは湧かないのだ……」
ちょっぴり落ちこんだ様子だけど、すぐに気を取りなおす。
「でも冒険者デビューできて嬉しいのだ! お礼にお手伝いするのだ!」
「いいよお礼なんて」
「遠慮しなくていいのだ! さあさあ、まずは家に入るのだ!」
ぐいぐいと背中を押され、家に入る。
そのまま背中を押され続け、風呂場に行きついた。
「お風呂に入りたいの?」
「入りたいのだ! ジェイドの背中を流すのだ!」
「のんびりしてくれていいんだけど」
「これがドラミ流のんびり術なのだ!」
初耳だけど、ドラミがそうしたいならお願いしようかな。
脱衣所で服を脱いで、ドラミと一緒にお風呂場へ。
するとドラミが、さっそく僕の背中をごしごしする。
「痒いところはないのだ~?」
「痒いところはないかな」
「痛いところはないのだ~?」
「痛いところもないかな」
「そろそろ泡を流すのだ~。えい!」
ちょろちょろと水をかけられる。
魔法を使いたくてお風呂に誘ったのかな?
「あれ? 水が止まっちゃったのだ」
「さっき魔法を使ったばかりだもん。休憩しないと魔法は使えないよ」
「だったらしばらく湯舟に浸かるのだ! そして次は魔法でジェイドの髪を渇かしてあげるのだ!」
途中で魔力が切れて半乾きに終わりそうだ。
だけど気持ちは嬉しいので、素直にお礼を言っておく。
湯舟に浸かり、ふぃ~と吐息を漏らすドラミ。
「疲れがお湯に溶けていくのだ……」
「だね……」
「……ところで、ドラミにお願いしたいこととかないのだ?」
「ないけど……さっきからやけにお手伝いしたがるね」
ぎくっ、という音が聞こえた気がした。
ドラミは目を泳がせながら、
「べ、べつに普通なのだ! だってジェイドには普段お世話になってるのだ!」
「……もしかして、僕に頼みがあるんじゃない?」
「ど、どど、どうしてわかったのだ!?」
「わかるよ。顔にそう書いてあるし」
ばしゃばしゃと顔を洗うドラミ。
だからそういう意味じゃないんだけど……。
とにかく、ドラミの真意はわかった。
「で、僕に頼みたいことってなに?」
「……これからもお手伝い頑張るから、カッコイイ武器を買ってほしいのだ」
「うん。いいよ」
「ええ!? 10000ゴルも出してもらったのに、そのうえ武器まで買ってくれるのだ!?」
「もちろんだよ。冒険者に武器と防具は欠かせないからね」
「防具まで買ってくれるのだ!? ち、ちなみに予算はおいくらなのだ……?」
「予算は気にしなくていいよ。魔獣と戦うんだから、ちゃんと装備を整えないと」
「うおおおおお! やったのだあああああ! ありがとなのだあああああ!」
ざばっと立ち上がり、嬉しそうに小躍りするドラミだった。
