受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第48話 いつか本物の英雄に 》

 楽しかった帰省旅が終わり、僕たちは王都に帰ってきた。

 その翌日のことだ。

 僕が目を覚ますと、ドラミはすでに起きていた。

 窓に顔を近づけて、外の景色を眺めている。

 ずいぶん前からそうしてるのか、窓は鼻息で真っ白だ。


「……なに見てるの?」

「な、なんでもないのだ」

「なんでもないようには見えないけど……」


 気になるので、僕も窓を眺めてみた。

 寝室の窓からは、ガーネットさんの家が見える。

 可愛い女性が住んでいるからか、家まで可愛く見えてくる。

 でもそれは僕に限った話だ。ドラミが興味を持ちそうなものはなさそうだけど……もしかして。


「家の壁にお絵かきしたくなったとか?」


 先日、みんなで楽しくお絵かきをしたばかりだ。

 楽しい思い出が蘇り、壁に絵を描きたくなったのかも。

 しかしドラミは首を振り、


「そんなことしたら、ガーネットに『だめだよ』って怒られちゃうのだ。……怒られちゃうのだ?」

「どうだろ……ガーネットさんは優しいし、怒りはしないだろうけど……やめといたほうがいいよ。絵を描くなら画用紙にしなきゃ。まだ余ってるよね?」

「余ってるのだ。いっぱい魔獣とドラミを描いて、子どもたちに見せてやるのだ!」

「うん。しばらく王都にいるから、好きなだけお絵かきしていいよ」


 オニキスさんを捜すため、早く次の旅に出たい気持ちもある。

 だけど、昨日旅を終えたばかりだ。

 ドラミも疲れてるだろうし、僕としてもガーネットさんと過ごしたい。

 そんなわけだから1週間はのんびり過ごすつもりだったけど――


「ずっとお絵かきばかりだと、身体がなまっちゃうのだ」


 ドラミはお出かけしたいみたい。

 遠出は控えるとしても、ずっと家にいるのは退屈だよね。


「いい天気だし、買い物でもしよっか?」

「さんせーなのだ!」

「どこか行きたい場所とかある?」

「武器屋に行きたいのだ!」

「武器屋に?」

「あと防具屋にも行きたいのだ!」


 お菓子屋とかパン屋に行きたがると思ってた。

 だけど意外ってわけじゃない。先日マリンちゃんとクエストしたとき、楽しそうにしてたもんね。

 それに冒険者デビューした子どもたちを見て、羨ましそうにしてたし……


「ドラミってさ、冒険者になりたいの?」

「ええ!? どうしてドラミが冒険者になりたがってることを知ってるのだ!?」


 探りを入れると、明確な答えが返ってきた。


「見ればわかるよ。顔にそう書いてあるもん」

「顔に文字が書いてあるのだ!?」


 鏡を確かめるドラミ。

 そういう意味じゃないよ、と告げ、


「冒険者になりたいなら、国王様に頼んでみよっか?」


 本来なら冒険者デビューするのに国王様の許可はいらないけど、ドラミはホワイトドラゴンだ。

 無断で冒険者デビューさせると、国王様も顔をしかめるかもしれない。


「……無理なのだ」


 喜ぶと思いきや、ドラミはしょんぼり顔だった。


「どうして? 冒険者になりたいんじゃなかったの?」

「なりたいのだ! なりたいけど……でも、ドラミはドラゴンだから、花紋は浮かばないのだ……」


 ああ、それで落ちこんでるのか。

 たしかに冒険者といえば花紋だし、それがないんじゃ素直に喜べないよね。

 だったら、誤解を解いてあげないと。


「ドラゴンでも花紋は浮かぶよ」

「えっ、ドラゴンなのに浮かぶのだ!?」

「うん。ドラミのことを魔獣って呼びたくないけど……魔獣のなかには『花紋付き』っていう強力な個体がいるんだよ」


 冒険者に花紋を授ける水晶の正体は、デビルツリーの魔石だ。

 そしてそれ以外にもうひとつ、花紋を得る方法がある。デビルツリーの実を食べることで花紋が浮かび、特殊な力を得ることができるのだ。


「その実を食べればいいのだ?」

「ううん。この実はなにがあっても食べちゃだめだよ」


 なぜなら特殊な力を得る代償に、じわじわとデビルツリーに身も心も乗っ取られてしまうから。

 そして、やがてはデビルツリーの苗床となり、新たなデビルツリーになってしまうのだ。


「怖すぎるのだ……間違って食べないようにしなきゃなのだ……」

「そうだね。でもデビルツリーはほとんど狩り尽くされてるから、間違って食べちゃう心配もないよ」


 なにせ花紋付きの魔獣は強すぎるから。

 魔獣が強化されないように長い時間をかけて冒険者たちがデビルツリーを討伐したのだ。


「もちろん魔石で花紋を浮かべるだけなら、デメリットはないよ」


 じゃなかったら花紋はこんなに普及してない。

 僕の話を聞いたドラミは、目をキラキラと輝かせていた。


「やったのだ! ドラミも冒険者になれるのだ!」

「そんなになりたかったの?」

「マリンを見てたら誰だって冒険者になりたいと思うのだ!」

「たしかにマリンちゃん、楽しそうにクエスト受けてたね」

「うおおお! ドラミも冒険者になるのだ! ジェイドみたいに人助けして、いつか本物の英雄になってみせるのだ!」


 そして冒険譚でみんなを楽しませるのだ~、と大はしゃぎするドラミ。

 いつかの僕を見ているみたいだ。


「ほんとに冒険者になっていいのだ!?」

「もちろんだよ」


 僕の旅には危険がつきまとうんだから。

 なにがあっても僕が守るけど、念のため自衛の術を身につけてほしいと思ってた。

 ドラゴンになればたいていの危険は突破できるけど、気軽にドラゴンの姿にさせるわけにはいかないし。

 なにより冒険者になりたがってる子どもの夢を奪うことはできない。

 僕自身、ずっと両親に反対されてきたんだから。


「さっそく許可を取りに行こっか?」

「なるべく良い印象を持たれるために、お姫様っぽい格好で行くのだ~!」


 ガーネットさんのお下がりに着替えると、僕たちは王城へと向かうのだった。